無駄な警戒が役に立……っているのかどうかはわからない
ゆで卵の殻をむいている将生に琳が訊いてきた。
「水宗さんは、あれからどうなったんですか?」
「知らない。
死体になったら情報も入るが……。
とりあえず、話を聞かれただけで捕まってはいないようだから、またピンクのゾウに乗ってウロウロしてるんじゃないのか」
まだ横の男を警戒しながら、将生は答える。
男は黙っているが、なんだかこちらの話に聞き耳を立てているようにも思えた。
俺と雨宮の会話が気になるのかっ?
雨宮のことを気にしてかっ。
そんな風に将生が見当違いの心配をしている頃、琳は琳で、真守のことが気になっていた。
少し気になる素振りがあったからだ。
最初は気のせいかと思っていたのだが、将生が真守を警戒しているようなので、やはり、なにかあるのではと思い、さりげなく観察していたのだ。
実は、将生の警戒心は恋心による勘違いだったのだが、琳はそのことを知らない。
真守の動きがおかしかったのは、二回だ。
「今日はピンクのゾウも居ませんよ」
と琳が将生に言ったときと、
「とりあえず、話を聞かれただけで捕まってはいないようだから、またピンクのゾウに乗ってウロウロしてるんじゃないのか」
と将生が言ったときだ。
このふたつに共通する単語はピンクのゾウ!
もしや、この人、水宗さんの事件に関係ある人では……。
それにパーカー着てるしっ、と琳が思ったとき、真守がトイレに立った。
琳はそちらを視線だけで窺いながら、将生に問う。
「あの人、事件になにか関係ある人なんですかね?」
「事件って?
水宗さんのか?
なんでだ」
と問い返され、琳は、あれっ? と思った。
「宝生さんも、今の方、警戒してたんじゃないんですか?
事件に関係あると思って」
「いや、なんでだ……」
なんだ、違ったのか、と思いながらも、琳は言う。
「あの人、さっきから、ピンクのゾウの話を出すたび、こう、表情がピクッて変わるんです」
「……ピンクのゾウの話?」
「私がピンクのゾウは今日は居ませんって言ったときと、宝生さんが、水宗さんがピンクのゾウに乗ってウロウロしてるんじゃないかって言ったときです」
そのとき、
「それ、普通の人間は、ギョッとすると思うんですよね」
と言う声がした。
いつの間にか、安達刹那が来ていた。
「あれっ? 今日は仕事じゃなかったんですか?」
と琳が言うと、刹那は、
「ええ、さっき、クビになりまして」
と言う。
「またですか……」
刹那はスツールに腰を下ろしながら、溜息をついて言った。
「幸せに暮らして、殺人事件なんかとは無縁な人生を装う計画がまた頓挫しそうですよ。
つい、塾長のセクハラを咎めてしまってっ」
「……これで何回目ですか?」
刹那は行く先々で、職場内の不正を暴いたり、ブラックな部分を問い詰めてはクビになっているのだ。
正義感が強すぎる犯人志望の人、問題がある、と琳が思ったとき、真守がお手洗いから出てきた。
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