ついに現れたっ!


「こんにちは。

 お手数おかけしまして申し訳ございません」


 そう言いながら、水宗が入ってきたとき、カウンターに座っていた将生が衝撃を受けたような顔をした。


「今まで幻かと思っていた造園業者の人が現実に現れたな」


「いやあの、宝生さんがタイミング的に合わなかっただけで、普通にみんな会ってますからね」


 苦笑いして琳が言い、窓際の席でおばあちゃんたちとお茶していた刹那が、


「僕はこの間お会いしましたよ」

と言って笑う。


「……なんか負けた気がするな」

となにに負けたのか、将生が呟いていた。




「では、全然、その方に心当たりがないんですね?」


 ふわふわとした、天然パーマなのか、パーマなのかわからない髪で人の良さそうな顔をした水宗が、はあ、と頭を掻く。


 イケメンと普通の顔の中間くらいだが、可愛らしい雰囲気なのでおばちゃんたちには人気だった。


「顔を見たわけではないんですが。

 たぶん、知っている人ではないと思うんですよね」


 琳は少し考え呟く。


「造園会社の車に乗ってらしたわけですよね?

 造園会社に恨みがあったとか」


「造園会社に恨みってなんだ?

 いきなり、二宮金次郎を持ってこられて景観が悪くなったとかか」

と将生が口を挟んできた。


 いや、別にうちはあれで困ってませんでしたけどね、と思いながら琳は言った。


「でも、あんたのせいだとおっしゃったわけですよね? その方。

 じゃあ、やっぱり、水宗さんに、なんらかの恨みがある方なんじゃないですかね?」


 水宗が青ざめる。


「あ、そうだ。

 スコップお返ししときますよ」


 そう言い、琳は一旦、外に出ると、スコップをとってきた。


 店の入り口に立ったとき、

「あー、暑いですね~。

 アイスコーヒー。


 いや、やっぱり、クリームソーダください」

と言いながら、佐久間がやってきた。


 どうぞーと琳は笑顔で店のドアを開けたが、佐久間は入りながら振り返り、琳に訴えてくる。


「いや~、もうやんなっちゃいますよ。

 意外と目撃情報少なくて。


 目立つはずなんですけどね~」


「え? なにかまた事件ですか?」


「今、傷害事件の現場から逃走したっていうピンクの車を追ってるん……


 ですけど」

と言う佐久間の目は木々の向こうにとまっているピンクのトラックを見ていた。


「ピンクの車?」

とカウンターから将生が訊き返している。


「ああ、すみません」


 トラックを見ながら、佐久間は言いかえた。


「ピンクのトラックです」


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