迷刑事の迷推理
濡れ衣だ……と琳は思っていた。
となり町にいた水宗さんに電話をかけて、別の事件の犯人にしかけたのは私ではない。
本来、真っ先に、濡れ衣だ……と思うべきなのは、水宗なのだと思うのだが、何故か水宗は、ぼうっとしていた。
そのぼうっとした水宗が焦るでもなく、中本に言う。
「あの~、電話かけてきたのは、琳さんじゃなくて、うちの社長ですよ」
その言葉に中本は深く頷いた。
「では、社長が犯人ですね」
……いや、なんの。
「いや、なんのだよ」
と佐久間が店内全員の心の内を代弁してくれた。
「水宗さんを犯人に仕立てようとした犯人ですよっ」
中本は舌を噛みそうなことを高らかに言ったあとで、名探偵が推理を披露する前のように、喫茶店の中の空いているスペースを歩き回り始める。
そして、それをおばあちゃんたちがお茶を飲みながら楽しく眺めていた。
この店に来ると、退屈しないわ、というように。
「まず、社長は娘に目立つピンクのトラックと白いゾウをデザインさせたんです」
「いや、社長、最初、反対してましたよ、あのデザイン」
しょっぱなから話の腰を折るようなその水宗の反論は、中本に軽くスルーされた。
「そして、となり町のその犯行現場付近に水宗さんの車が通りかかったとき、社長は水宗さんに電話をかけ、防犯カメラに映るよう、トラックを止めさせたのですっ」
待て、と将生が言った。
「何故、社長に、今、トラックが何処にいるのかわかる?
トラックにGPSでもつけてんのか。
というか、その設定だと、となり町の殺人事件の犯人は、造園会社の社長ということにならないか?」
中本はまた高らかに言った。
「そうなんですかねっ?」
えっ?
今の疑問文……?
ものすごい自信満々に言ったから、『そうですっ』と言い切ったのかと思った……。
何事にも動じない琳も中本のあまりの迷推理に動揺が隠し切れない。
「なんで、いきなり造園会社の社長が犯人なんだ。
そもそも、となり町の殺人事件はどんな事件だ。
そして、その罪を自分とこの社員になすりつけようとするのは何故なんだ」
連続して突っ込んでくる将生に、中本は一瞬、怯んだ。
だが、すぐに、
「わかりましたっ」
と言う。
……わかったんだ?
「水宗さんと娘さんが恋仲で、お父さんとしてはそのことが腹立たしく、邪魔したかったんですよっ」
「いや……娘の彼氏が気に入らないからって、ブタ箱送りにしようとする父親、怖すぎだろ」
誰も嫁にもらってくれなくなるぞ、その娘、と将生が呟く。
「でもあの、そもそも、僕、その社長の娘さん知らないんですけど」
おずおずと口を挟んでくる水宗に中本が言う。
「そんなはずないです。
娘さんは、水宗さんと同じ美大で入学した年も学部も学科も同じなんですから」
えっ? 誰っ? と水宗は身を乗り出す。
「
ええっ!? と水宗は衝撃を受けていた。
「高円寺さん、社長と名字違いますよっ?」
「前の奥さんのお嬢さんなんですよ」
水宗はいきなり、窓の外のあのピンクのトラックを振り返り叫ぶ。
「そうだったのかっ。
どうりで、素敵なデザインだと思ったっ!」
「……いや、水宗さん、そのデザイン、嫌そうでしたよね」
「造園業でゾウとかナイスなセンスですよっ」
そうですかね……?
「まあ、いいんじゃないか?」
と何故かちょっと、ほくそ笑んで将生が言う。
「なんだかわからないが、恋でもはじまりそうだから」
まあ、別の事件の取り調べもはじまりそうだが……と付け足してはいたが。
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