新しい事実がわかりました


 ふう、危ないとこだった。


 中本まで雨宮さんに惚れてしまうところだった、と思いながら、佐久間は振り返り振り返り去りゆく中本を見送っていた。


 此処にずっと居たら、みんな雨宮さんを好きになってしまうに違いないから。


 そんな、

「いやいや」

と将生が手を振ってきそうなことを中本は思っていた。


「手に汗握る攻防戦でしたね」

と水宗が呟く。


「とりあえず、なんでも理屈をこねまわして目の前の人を犯人にしようとする者同士の戦いというか」


 いや、それで今、犯人にされかけたうちの一人があなたなんですけどね……と思いながら佐久間は聞いていた。


 自分がやってもいない事件の犯人と疑われるという、非現実的なことが続く中、もう水宗の感覚は麻痺してしまったらしく、傍観者のようになっていた。


 そのとき、なにかに追われるように店にやってくる人影が見えた。


 長身でバランスのいい体格の俳優のような男。


 水宗のおかげで手入れのいい庭を走ってくる姿はサマになりすぎていて、なにかの撮影のようだ。


 店に入ってきた将生が早口に言う。


「時間がないんだが、あれからなにか進展したか?」


 追われていたのは仕事からのようだった。


 わずかな隙を縫って出て来たらしい。


 いや、そこまでしなくても、と苦笑いする佐久間の前で、琳が将生を見上げて訊いた。


「あれっ? 宝生さんのところには情報入ってこないんですか?」


「来るわけないだろう。

 被害者死んでないのに……」


 あっ、そうでしたよね、死んでなかったですよね、と琳が笑った。


 内容はともかく、花のような笑顔だ。


「雨宮、お前の望んだ、人が死なない事件だぞ。

 喜んで首突っ込んでるだろう」

と言われた琳は眉をひそめて言い返している。


「被害者の方が怪我するのも好きじゃないですよ」


「じゃあ、せいぜい、猫探す程度の謎でも解いておけ。


 アイスコー……」


 カウンターのスツールに座りながら、そう言いかけた将生だったが、


「いや、アイスのほうじ茶ラテで」

とメニューにないものを言う。


 ええーっ、と言いながらも、琳は作っていた。


 こちらに背を向けて、ゴソゴソほうじ茶を探している琳を見ながら、将生がちょっと笑う。


 絵になる二人だ。


 これがドラマなら、きっとこの二人がカップルだ。


 でも、雨宮さんて変わってるし。


 現実はドラマとは違うはずだ。


 リアルな世界では、美男美女のカップルより、美女と野獣の組み合わせの方が多い気がするし。


 ……いや、自分は野獣というほど、男らしくも勇ましくもないのだが。


 佐久間がそう思ったとき、中本から電話がかかってきた。


「新しい事実がわかりました」


 ……反響して聞こえる。


 スマホの調子でも悪いのだろうかと思ったが、琳がほうじ茶のパックを手に店の入り口の方を見ていた。


 振り返ると、ガラス扉の向こうに、スマホを耳に当てた中本が立っていた。


 こちらを見ながら、

「帰っている途中で連絡が入りました。

 僕が佐久間さんと居ると思って、僕の方だけに」

とガラス越しと電話越しに言ってくる。


「いいから入ってこいよっ」

と言うと、中本は扉を押し開けながら言ってきた。


「だって入ると、また佐久間さんの機嫌悪くなるから~」


 だから、僕、此処来ないんですよね、と可愛らしい顔を膨らせて、余計なことを言う。


「あのコンビニ近くの防犯カメラを調べたら、またあのトラックがちょこっと映っていたそうです」


 白いゾウも映っていたので間違いないらしいです、と中本は言った。


「……もうあのトラックやめた方がいいですよ」

と琳が水宗に言う。


「何処に居ても、足取り追えますよ。

 目立つから」


 いや、なにもしてなければ追えてもいいと思うのだが……。


「犯行現場付近で、一度、トラック降りてますよね? 水宗さん」


「え?」


 その話ならもう、と水宗は言いかけたが、中本が言う。


「となり町の殺人事件の犯行現場です」


「ああ、そうだ。

 確か電話がかかってきたんで、降りて出たんですよ」


 もう傍観者になっていた水宗は冷静に思い出し、冷静に言った。


 みんなは、また濡れ衣を着せられそうな水宗ではなく、琳を見る。


「……いや、私じゃないですからね、その電話したの」



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