私がここにいる意味は……

 

「珈琲はいまいち。

 メニューはレトルト。


 庭は造園業者さんがやっている。


 私はこの店でなにをやっているのかなと、今日はちょっと自分の存在に疑問を抱いたんですよね」


 夜、仕事帰りにやってきた将生に琳は言う。


「いいじゃないか、その道のプロたちが頑張って、お前の仕事が成り立ってるわけだから」


 最近いないけど、喜三郎さんとか。


 レトルトの工場の人とか。


 ちょっとムカつく白いカメの造園業者とか、と将生は言う。


 ちょっとムカついてたんだ、あのカメに……と思いながら、琳は外を見た。


 その白いカメの造園業者が最近置いていってくれたボール型のソーラーライトがあちこちに置いてある。


 ぼんやりとした月明かりに照らし出された庭に、同じようにぼんやりとした暖色系の丸いソーラーライトが点在していて、いい雰囲気だ。

 

「すると、琳ちゃんはなんのプロなんだろうね?」


 話を聞いていたらしい小柴が、窓際の席から笑いながら言ってくる。


 うっ、やはり、私はなにもしていないっ、と琳は思ったが、小柴は、


「きっと、喫茶店のプロなんだよ」

と本に目を落としたまま言う。


「喫茶店ってほら。

 なにか食べたいから行くとか、飲みたいから行くとかだけじゃなくて。


 その空間にいたいから行くって言うかさ」


「ここにいたら、常に、誰かがなにかの犯人にされかけるのにですか?」

と大真面目に将生が訊き返したとき、顔を上げて小柴は言った。


「でも、まあ、そろそろ、喜三郎さんの珈琲が飲みたいかな」


 琳は、あ~、と溜息をつくように言う。


「それが、喜三郎さん。

 来られてもすぐに帰ってしまうんですよね。


 生け花とかに夢中みたいで」


「生け花ねえ……」


 小柴は琳の淹れた珈琲を一口飲んだあとで言った。


「まあ、気にすることはないよ。

 この店はほんとうに居心地がいいよ。


 ところで、琳ちゃんがそんなに気にするってことは、喜三郎さんの件、なにか事件の匂いがするのかな?」


 解決に僕も協力するよっ、と小柴は、やけに積極的に言う。


 そのトラブル解決したら、喜三郎さん帰ってきてくれて、珈琲淹れてくれるに違いないっ、という勢いだった。


 それを誤魔化すように小柴は笑って言った。


「喜三郎さんがいないと、囲碁の話もできないしね」

と。





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