どうしてこんなことに……?
……何故、こんなことに。
総合体育館の外。
人気のないセメント作りのトイレの個室に佐久間は詰め込まれていた。
腕も足も縛られ、口もタオルで縛られている。
ひとりで戻ったのが運の尽き。
この目の前に居る犯人らしきゴツい男に捕まり、此処に連れてこられたのだ。
ああ、誰か来ないだろうかと思ったが、今日は総合体育館は休みだった。
卓球をやるおじいちゃんおばあちゃんたちも、体育館周辺でランニングする人たちも居ない。
散歩の人が来るとか。
みんなが戻ってくるとかないかな。
でも、僕が居なくてもみんな気づかないよな。
そもそも、署にずっと居る仕事じゃないし。
よく雨宮さんとこで油売ってるし。
連絡つかなくても、雨宮さんとこにでも行ってると思って、誰も心配しないよな。
さっきまで、マナーモードのスマホが胸ポケットで震えていたが、それも静かになっていた。
「また連絡つかないっ。
もう~っ」
と切れる中本の顔が頭に浮かんだ。
署の誰も探しに来てくれそうにない、と佐久間は絶望に打ちひしがれていたが。
琳のところに行き過ぎていることが功を奏して、喫茶店の方で来ないことを心配されていた。
それにしても、何故いきなり、僕はこんな目に……と思っていると、腕組みして仁王立ちになっている男が言う。
「お前も運のない男だな。
俺が凶器の残りを手に現場に戻ってきたところに遭遇するとは」
凶器の残り? と見ると、男の手には、今、自分を縛った一巻の麻縄があった。
ゴミを縛ったりもするやつだ。
「お前、刑事なんだろう?
俺が犯人で、これが凶器の残りだとすぐにわかったはずだ」
刑事、そんな万能じゃありませんっ、と佐久間は心の中で絶叫する。
ていうか、なんで凶器を手に戻ってきたんですかっ。
軽率すぎでしょうがっ、と佐久間は思ったが。
巻かれたままの麻縄を手にウロウロしているところを誰かが見ても、ああ、此処の事務員さんとかで、今からゴミを縛るのかな、くらいにしか思わないだろう。
「また程よくトラックでも来たら、凶器を放り込んだときみたいに、殺したお前を放り込んでやろうかと思ったんだが」
道の方を窺いながら、男は言う。
「昔、誰かが言ってたんだよな。
通りすがりの車に凶器を放り込んだら見つからないって話を」
金で揉めていた相手に呼び出されて総合体育館裏に行ったのだが、更に揉め事になり、近くにあった麻縄で
……なんで麻縄なんてあったんだ、と思ったとき、男が言った。
「近くの木に立てかけてあったデッカいスコップで殴り殺した方がよかったかな」
スコップでも、縄でも。
どのみち、水宗のトラックに放り込まれたのだろうが。
「さて刑事を殺すとあとが怖いと言うし。
どうしようかな。
なんとか事故に見せかけられないかな……」
そう呟きながら、男は残った麻縄を見、窓の外を見た。
おそらく殺すのによさそうなデッカいスコップとやらを眺めているのだろう。
どっちも事故には見せかけられませんよっ、と佐久間は心の中で叫んだ。
自殺も無理ですよっ。
僕は今日も明日もあさっても、生きて元気で雨宮さんの居る猫町3番地に行きたいんですからっ。
と同僚たちからは、
「いや、仕事はっ!?」
と怒鳴られそうなことを佐久間は思っていた。
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