ショートショート「トレインデッド」

昨夜未明、JR××線の回送電車内で、駅員が男性の死体を発見した。警察の調べによると男性は三十代前半で、吊革を下げる鉄棒にネクタイを結び縊死していた。警察では男性が自殺したものとみて操作を進めている。


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「この人痴漢です!いい加減にしてよ、さっきからずっとあたしのお尻撫でてるでしょあなた。黙ってうつむいてないでなんとか言いなさいよ。やだ!また撫でたでしょ!ほらこの手で、手、あれ、これ足?

やだ、首吊ってる」

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電車車両内での遺体発見が相次いでいる。4~6月で100件を超える異常事態に各鉄道局は困惑の色を隠せない。

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「ええ、気づいてましたよ、亡くなってたのは。同じ車両にいた方みんな気づいてたんじゃないかな。

通報?しませんよ。係わり合いになりたくなかったんです。それになにより、遅刻するのはイヤでしたから」

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先日、家族で電車に乗った際の話です。私たち家族の前方で突然、スーツ姿の男性が首を吊りました。

オシッコの匂いが車内に充満し、なんとも嫌な気分になった上、子供たちが初めて見る死体に動揺し大泣きしてしまいました。いまわの際にそこまで望むのは酷かもしれませんが、一人の大人として、マナーを守った最期を迎えてほしいものです。

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「ハクション!」

「大丈夫ですか」

「どうも。この車両、少し寒すぎやしないかね」

「そりゃそうですよ、専用車両ですから」

「強冷車ができたのかい?いや、電車は久し振りでね」

「ご存知無かったんですか。イシ用車両ですよ」

「救護用かい」

「あっはっは、まったく逆ですよ。首吊り死体用の車両です」

「え、え」

「車両自殺の流行はご存知ですよね。いわばここは霊安室なんです。ご遺体が悪くならないように、こうやってぶら下げて、管理してるんです」

「まるでマグロ市場だな」

「昔は轢死体をマグロと言ったとか。時代の流れですねえ」

「なんて寒い車両、なんて寒い時代。正しくぞっとする話だ。ところで一つ聞きたいのだが」

「何ですか」

「き、君は生きた人間かね、それとも幽霊なのかね」

「いやだなあお爺さん、生きてる人間が、こんなに優しい筈ないでしょ」

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