ショートショート「ファナティック」

 スカーレットの皆様へ


 今日は本当に、ありがとうございます。

 初めてこんな文章を書くので、とても緊張しています。


 これを書いている今、まさに、スカーレットの歌を聞いています。

 目をつむると、あの伝説の一日、武道館の熱気が蘇ってきます。


 はるにゃの太陽みたいな笑顔、まっきーの凛としたパフォーマンス、こずたんの美しい歌声。

 そして、僕に夢と希望を与えてくれた唯一無二のアイドル、しずりん。


 自分よりずっと年下の女の子たちが、世界と戦う姿に衝撃を受けました。

 小さなライブハウスから大きなステージへ、お茶の間へ、海外へ。

 成長していくみんなの姿を見ていると、いつでも勇気が湧いてきました。

 

 みんなと一緒に笑い、泣き、歌った日々は、僕の生涯の宝物です。


 だから、解散ライブの日は本当に、本当に涙が止まりませんでした。

 心に大きな穴が空いてしまい、生きるのをやめようかとさえ考えたほどです。

 何とか思いとどまれたのは、やっぱりスカーレットのおかげです。

 ずっと僕を支えてくれたスカーレットを侮辱するような真似をしてはいけない。

 今度は僕が、受け取った勇気を武器に、精一杯の恩返しをしよう。

 そう心に誓ったんです。    

  

 辛いときはスカーレットを聞いて、なんとか今日を迎えました。

 僕がやっと、みんなに恩返しができるこの日を。


 事情は弁護士の方から伺っておられるでしょうか。

 突然お呼び立てしてしまい、誠に申し訳ございません。

 直接お話ができない自分を悔しく、また、情けなく思います。 


 でも、これだけは言わせてください。

 僕は、スカーレットのファンであることを、何よりも誇りに思います。

 四十年前の武道館、あの日の消えない熱量で、僕は最期まで駆け抜けることができました。

 しずりん、はるにゃ、まっきー、こずたん。

 僕に生きる意味を、人生を与えてくれて、本当にありがとう。




 遺書



 妻、静香へ、私の遺産から10万円を譲渡する。

 

 長女、春奈へ、私の遺産から10万円を譲渡する。 


 長男、誠へ、私の遺産から10万円を譲渡する。


 次女、梢へ、私の遺産から10万円を譲渡する。

 

 前述の40万円を控除した資産の全てを、アイドルグループ「スカーレット」の元メンバー、

 門脇しず華、大津陽菜、神宮司真琴、水鏡こずえ(敬称略)に譲渡する。

 


 以上

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