ショートショート「蛇足」

「あの鉄橋を超えたら、直に目的地の村だ」

「長い旅だったな。そうそう、麓の茶店で面白い話を聞いたぜ。

 なんでも、この辺りに昔、マヌケな化け物が出たらしい」

「化け物?」

「棲家は山奥。出るときはいつも正体を隠し、何かに化けて現れる」

「文字通り、化け物ってことか」

「ほぼ完璧に姿を偽って、油断した獲物を引っ掛けようとする。

 ある時は言葉巧みに、ある時は色仕掛けで、またある時は力ずくでな」

「ふうん、『ほぼ』完璧ってどういうことだ?」

「だからさ、そこがマヌケなんだよ。

 そいつが何かに化けるとね、いつでも足が、やたら多いんだと。

 人に化ければ足が四本、猫に化ければ足六本、てな具合。

 みんな明らかに怪しんで、犠牲者は一人も出ませんでした、とさ」

「ははは、そいつはマヌケな話だ」

「川の向こうの宿に着いたら、もっと詳しい話が聞けるかもな」

「俺はもう腹ペコだよ、人でもなんでも食っちまいたい」

「化け物じゃあるまいしよ。余計な足を出すなよ、貧乏旅行なんだから」

 車内に屈託のない笑い声が満ちた。

 


 その瞬間、地面が大きく傾いだ。



 助けを求める愚かな獲物を載せ、鉄橋が川を遡上していく。

 やたらと多い橋脚を、百足のようにガチャガチャと蠢かせて。

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