ショートショート「蛇足」
「あの鉄橋を超えたら、直に目的地の村だ」
「長い旅だったな。そうそう、麓の茶店で面白い話を聞いたぜ。
なんでも、この辺りに昔、マヌケな化け物が出たらしい」
「化け物?」
「棲家は山奥。出るときはいつも正体を隠し、何かに化けて現れる」
「文字通り、化け物ってことか」
「ほぼ完璧に姿を偽って、油断した獲物を引っ掛けようとする。
ある時は言葉巧みに、ある時は色仕掛けで、またある時は力ずくでな」
「ふうん、『ほぼ』完璧ってどういうことだ?」
「だからさ、そこがマヌケなんだよ。
そいつが何かに化けるとね、いつでも足が、やたら多いんだと。
人に化ければ足が四本、猫に化ければ足六本、てな具合。
みんな明らかに怪しんで、犠牲者は一人も出ませんでした、とさ」
「ははは、そいつはマヌケな話だ」
「川の向こうの宿に着いたら、もっと詳しい話が聞けるかもな」
「俺はもう腹ペコだよ、人でもなんでも食っちまいたい」
「化け物じゃあるまいしよ。余計な足を出すなよ、貧乏旅行なんだから」
車内に屈託のない笑い声が満ちた。
その瞬間、地面が大きく傾いだ。
助けを求める愚かな獲物を載せ、鉄橋が川を遡上していく。
やたらと多い橋脚を、百足のようにガチャガチャと蠢かせて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます