ショートショート「爆弾処理班」

渇ききった唇をなめる。

当然、周囲に他者はいない。

僕の額を、大量の汗が伝っていく。

薄暗く狭く空間は酷く蒸し暑い。

作業にとりかかってから、この瞬間まで、果てしなく長い責苦に感じた。

だが、それも、じきに決着する。


爆発すれば多大な被害をもたらす装置。

その中枢部に、遂に辿り着いた。

工具の先に接触する、太いケーブル。

これを切断すれば、全ては解決する筈だ。


手の震えが止まらない。

でも、やらなきゃいけないんだ。

多くの人を僕が救うんだ。

僕は叫びながら、工具に力を込めた。



沈鬱な表情で、刑事は頭を下げた。

憔悴しきった女は、ベンチに座りこんだまま呟く。

「......息子に何が起きたんですか」

「現在、捜査中です」

「優しい息子だったんです。誰も傷つけたくないって、そればっかり言って。自分ばかり責めて。どうしてこんなことに」

「発見が早かったのは不幸中の幸いでした。息子さんを信じましょう」

「どうしてこんなことになったの!」

母親の叫びは待合室に反響した。

黙って立ち尽くす警察官が見えていないかのように、母親は震えながら呟いた。

「首の血管を、ハサミで切るなんて」

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