ショートショート「アポイントメント」
「この度はお時間をとっていただき、ありがとうございます」
「……いえ、そんな」
「遅い時間のご訪問となり、申し訳ございません。先にご連絡しました通り、なにせお会いできる時間が限られているものですから」
「ええ、まあ。驚きましたけど」
「重ね重ね申し訳ございません。ただ、ご無礼は承知のうえで、どうしてもお伝えしたいことがありまして、こうして御社に伺った次第です」
「……ご丁寧にどうも」
「単刀直入に申し上げます。『フライデードッキリ』を終了していただきたい」
「やはり、そのお話でしたか。そうだろうなと思ってはいました」
「このご時世に平均視聴率二十パーセントの大ヒット番組、それを作り上げたのはプロデューサーの貴方だ。だからこそ、お願いしたいのです。あの番組を終わらせてください」
「あの番組は今や、我が局の生命線だ。いま手放すわけにはいかない」
「人の命を奪っておいて、何が生命線ですか」
「……」
「ご存知ですよね?あの番組の人気企画、いきなりカースタントサプライズ。あれを真似ようとした若者が、事故を起こしました。車が横転して、歩行者を巻き込んで。車を運転していた若者は軽傷でしたが歩行者は亡くなった。ご存知ですよね」
「ただの事故だ。番組は関係ない」
「いいえ。あなたはそのニュースを知っている。事故が番組のせいで起きたと思っている。これ以上犠牲を出したくないと思っている。だからこそ、私に会って下さったのでしょう」
「……」
「どうか『フライデードッキリ』を終了して下さい。私からの最期のお願いです」
「……ひとつだけ、伺ってもよろしいですか」
「なんでしょう」
「どうしてここまでキッチリと、正規の手続きを踏んで面会に来たのですか。あなたはもう、幽霊なのに。この世の理に関係なく、どこにだって現れることができるのに」
青ざめたテレビマンの前で、血塗れの幽霊は微笑んでみせた。
「私、サプライズで死んだんですよ。驚くとか驚かせるとか、もう嫌なんです」
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