ショートショート「ヌーディズム」

 僕はひっそりと、全裸で暮らしたい。

 

 こっちを向いて、真剣に聞けよ。

 それが理由だって言ったんだ。

 僕はひっそりと、全裸で暮らしたい。

 ゆがんだ自己顕示欲とか、仕事のストレスとか、周囲カランプレッシャーとか、そういうの関係ない。 ただ、単純になんで服を着なきゃいけないのか、分からなくなったんだ。


 

 ファッションセンスは悪くないと思う。

 今でも無駄な毛は剃ってるし髪は整えてる。

 細かいおしゃれは忘れてないよ。

 ただ、なんていうのかなあ、ある日突然気づいちゃったんだよね。

「あれ?なんで僕、裸じゃないんだろ?」って。



 羞恥心?あるよ。普通にある。

 でも羞恥心ってさ、そもそも人間が服を着てるから生まれる感情だよね? 不自然に服着て隠す文化のせいで、変に勘繰っちゃうわけでしょ。

 素っ裸なら、恥ずべきことなんてない。最初から隠し様がないから。

 


 とはいえ僕も、服を着た人の中で育ってきたわけで。

 いまさら一抜けオールヌード!って度胸はちょっとなかった。

 でも、日に日に増大していく、服を身にまとうことへのむずがゆさ。

 大いなる煩悶を燃料代わりに、一心不乱に研究に打ち込んだ。

 結果、僕は画期的な解決策を編み出し、迷うことなく実行した。

 それが今の僕の姿さ。



 僕はあくまで科学者だから、この研究が世間に何をもたらすかまでは分からない。でも、法の整備やインフラ作りは早くも始まってるみたいだよ。どういうわけだか僕の同好の士には、けっこうな地位についてるやつらが多くてね。連中もスーツや法衣を脱ぎ捨てるためなら、多少は無茶するだろう。近いうちに、僕らにとって随分と、住みやすい世の中になる。

 


 ぼくは満足しているよ。 このとおり、胸を張って言える。

 もちろん君には見えないけどね。このとおり、透明になった僕の姿は。

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