ショートショート「バイトラッシュ」

「来てくれてありがとう」

「ん。で?相談って何だよ」

「こないだ変なサメに噛まれてさあ」

「うん、ん?」

「変なサメに噛まれてさあ」

「事も無げにナニ言ってんだ」

「海に浮き輪浮かべて寝てたら、浮き輪ごと脇腹、ガブッといかれた」

「うわうわうわ」

「死ぬかと思ったよ。ほら俺、カナヅチだから」

「それどころじゃねえよ、え、何で無事なの」

「だから変なサメだったんだよ。すごい臭かったの」

「魚類はだいたい臭いだろ」

「じゃなくて。腐敗臭。なんか目も濁ってたし、泡吹いてたし」

「よく観察できたなお前」

「あれさあ、サメのゾンビじゃないかと思うんだよね」

「なんだそのB級コラボ怪物は。何?つうことはお前、ゾンビなの?」

「そこが実はややこしいんだよね」

「ん?」

「実はこの間、なんと犬に噛まれてさあ」

「構成おかしいだろ。犬の後にサメだ普通は」

「変な犬だったんだよねえ。まず、泡吹いてたし」

「泡って流行ってんの?」

「やたら獰猛でさ、水を異常に怖がるんだよ。たぶん狂犬病なんだよね」

「マジでヤバいな」

「買い物の帰りにいきなり、首筋噛まれたんだ」

「え、お前狂犬病なの?」

「袋にたまたま、ニンニクが入ってたんだけど、犬がそれ見て苦しみだしてさ」

「ニンニク?」

「そしたら巨大なコウモリに化けて、バサバサ飛んでいったんだよね」

「ねえ、何で平然としてるの?」

「あの犬、狂犬病の吸血鬼だと思うんだよね。珍しいよね」

「ややこしいな…ちょっと待って?つうことは何、お前は吸血鬼と狂犬病とゾンビになってる可能性があんの?」

「そう、あとサメな」

「サメはねえよ。めっちゃややこしいな。自分で分からないのか」

「分からないねえ。だからさ、確かめたいんだよ。自分が今、何なのか」

「どうやって?」

「だからさ、なあ、ちょっと噛ませてくれないか?」

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