ショートショート「単独ライブ」

「この前、すごい斬新な単独ライブ観てさ」

「いきなり他の芸人の話かよ」

「ホンマに斬新やって、俺、感動したんよ」

「そんなにかいな。なんて芸人さん?」

「知ってるかなあ。中川家」

「知ってるわ!大御所やないか。そら面白いに決まってるやん」

「違う違う、中川家・高杉家」

「高杉家?」

「うん。男女コンビやってん」

「......結婚式ちゃうん?」

「中之島でやっててさ」

「結婚式ちゃうん?」

「劇場が聞いたことなかってんけど、チャペル・ブライテストっていう」

「結婚式やん!それ単独ライブちゃうねん!結婚式や!」

「俺も全く初見のコンビやってんけど、思いきって観たろと思って、フラッと入ったんや」

「フラッと入るな!」

「受付で聞いたんや、当日券いくらですか?って。すごい変な顔されてさ」

「ないねん!当日券とか!そら変な顔もするわ」

「ほんでまあ、会場に入ったらさ。」

「どうやって入ってん!阻止せえよ受付!」

「広めの劇場やねんけど、席の間隔は余裕あって座りやすかったわ」

「そらそうや」

「全く無名のコンビなのに、会場は満員やってん」

「そらそうやって」

「ただ、会場の雰囲気から察するに、どうも友達とか親戚をたくさん呼んだみたいやねんな」

「そういうもん!その為の席や」

「パッと見た感じ、俺みたいなお笑いファンは数名しかおらんかったな」

「数名おったん!?不審者だらけやんか。なにしてんねん受付!」

「そうこうしてたらパパパパーン、パパパパーン、出囃子が流れた」

「出囃子言うな」

「男のほうは普通にスーツやねんけど、女のほうがめっちゃ派手なドレスやねん。若手やのにめっちゃ派手でさ、くるよ師匠みたいやったわ」

「めっちゃ失礼。新婦と師匠どっちにも失礼」

「で、ライブが始まった訳よ。テーブルにめっちゃ旨い料理が並んでて、食事しながらネタとコーナーを観る形式やってん。めっちゃ斬新やろ!体験したことないやろ!」

「体験したことはあんねん。もう怖いって。いつ気づくんやコイツ」

「俺もさ、思わず声だして突っ込んだもん。『いや、結婚式か!』って」

「......えーっ!?待って!結婚式は知ってんの?」

「知ってるに決まってるやろ、ちゃうがな、今は単独ライブの話してんねん」

「どっち?結婚式を単独ライブやと思てるの?結婚式みたいな単独ライブに行ってきたの?」

「何を慌てふためいてんねん」

「お前のせいや。よし、お前がその、単独ライブ?で観たものの話をしてくれ。そこで何となく分かるから」

「司会の人がめっちゃ上手やった」

「......これは、どっちや?」

「合間合間にVTRはさまってたわ」

「どっちや?」

「仲良しの後輩が出てきて漫才をするんやけど、めっちゃ滑ってたわ」

「どっちや!?どっちでも観たことある光景やねん!どっちや!?」

「ほんでまあ終演後に出待ちしようと思ったら、もう先に劇場の外におってファン対応してはってん」

「そういうもんやって」

「俺も挨拶しにいってさ。言うたんよ。『すごく楽しかったです。第二回も楽しみにしています』」

「おお大丈夫か!?結婚式の場合とんでもないことになるぞ!?」

「ほんでまあお土産もろて帰ってきたんや」

「引き出物もろてるやん、やっぱり結婚式やん」

「単独ライブやって。『引き出物まであるんかい!』ってボケやんか」

「何を貰ったん」

「お皿と、お茶漬けの元のセット」

「ガチのやつやん。結婚式やろ?」

「単独ライブやって」

「なんで認めへんねん。結婚式やって!」

「単独ライブや!あれは結婚式みたいな単独ライブや!全部フィクションなんや!だから、だから俺はまだ、あの子と、結婚できるんや!」

「............こっわ!」

「感動的な単独ライブやったわ」

「海、見に行こか。もうええわ」

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