ショートショート「マサカー」

私は誓いました。

絶対に殺してやる、と。


全ての始まりは、あの十一月。

当時、私は17才。幸せの絶頂にいました。

人生で初めて、彼女ができたのです。

私のつたない告白を、彼女は頬を染めながら受け入れてくれました。


少しでもいいカッコをしたい。

その一念で、部活と勉学に励みました。

苦手だった英語が急激に伸び、学年トップクラスの成績を獲得。

そのうえ、サッカー部でレギュラーに選ばれたときは、本当に嬉しかった。

これからもっと素晴らしい高校生活が待っている、そう信じて疑いませんでした。

あの、呪われた嵐の日までは。



私は咳が止まらず微熱があった私は、風邪を理由に練習を休もうとしていました。

しかし顧問は、低気圧より大会の日取りの接近を気にしていたのです。

やがて、真っ暗な雲が広がり、大粒の雨が降り出しました。

身体が冷え切り、みんな顔面は蒼白、それでも顧問は練習を止めませんでした。

私は皆を鼓舞し、顧問の激に懸命に答え、そして、倒れました。



迎えた試合の日。私は病室にいました。

こじらせた風邪が肺炎を併発し、一週間の入院を強いられたのです。

悔しかった。顧問は見舞いにすら来ませんでした。

流れ込む点滴を、そのまま排出するように、涙が止まりませんでした。



学校に戻った私を、さらなる悲劇が待っていました。

彼女から別れを切り出されたのです。

新しく好きな人ができた、と。

心変わりの相手は、私の代わりに試合に出場したチームメイトでした。



眼を閉じれば今でも、屈辱と怒りが込み上げてきます。

素知らぬ振りを決め込む顧問、揶揄するかつての仲間。

もう二度と振り返らなかった、彼女の背中

退部届を提出し、彼女との写真を消去したあの日。私は誓ったのです。

許さない。みんな殺す。残らず殺してやる。

絶対に殺してやる。



壮絶な努力と冷徹な意志の元、私は粛々と準備を進めました。

そして、計画を実行したのです。



周囲を取り囲む騒々しい群衆。

私が薄く笑みを浮かべてみせると、どよめきは更に大きくなりました。

ゼッタイニコロシテヤル。

見事にやり遂げた私を、おびただしいフラッシュが包みました――――。



「―――いま、空港に――博士が現れました!」


「ノーベル医学賞を獲得された――博士の研究―――」


「原因菌が数百種類に及ぶため不可能とされていた風邪――」


「博士が開発した特効薬は――体内で症状を起こす原因菌を捕捉し、殺菌!」


「『風邪』をこの世から、消滅させるのです!」

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