ショートショート「スタンダール」

大変なんだよ、サンタの仕事って。


玩具の流行り廃りなんて誰にも分からなくて、だから品切れ転売クレーム訴訟が相次ぐわけ。でもサンタは、少なくとも12/24には膨大なプレゼントを確保しなきゃいけない。もう暴力的なまでの資金投入しかないんだ。


そもそも対象が多すぎるんだよ。配布の基準は「よい子」ってだけ。いくら少子化が騒がれてても世界中に子供が溢れている。多すぎる需要と少なすぎる供給の不一致。どだい無理のある信仰なんだよな。


だから俺たち、黒サンタの出番。

不一致を解消するためのおしごと、黒サンタ。


行動はだいたい、普通のサンタと変わらない。世界中の家を回って、プレゼントを配る。違うのは2つだけ。

大人の依頼で大人にプレゼントを渡すこと。

プレゼントを人の家から調達すること。

泥棒とは違うよ。あくまでビジネスだ。サンタの負担を減らし資金を提供している。クリスマスを支えてるのは俺たちなんだ。


オモチャはひとつもあげない?君の?いや、だから盗らないよ。まだ分からないかなあ。

俺が頼まれたプレゼントはね、こども。

つまり盗られるのは君自身だよ。

君、悪い子なんだろ?性格が態度が顔が世間体が、どれかは分からないけど悪い子なんだろ。だからもう、要らないんだってさ。

一方でどうしても子どもが欲しい人もいる。見てくれも性格もどうでもいい、こどもじゃないと駄目だ、新しいオモチャが欲しい、そんな困った大人達が。まあこれも、需要と供給の不一致だよね。

俺はそんなお金持ちから報酬を貰って、君みたいな子どもをプレゼントする。お金持ちはプレゼントが手に入って喜ぶ。ご両親は家が片付いて喜ぶ。そしてサンタさんも喜ぶ。プレゼントを配る相手が減れば、それだけ早く仕事が終わるから。誰だって早く帰りたいもんな。


そういうビジネスの一環で、君は攫われるわけ。ぜんぶ話した理由はわかる?俺なりの憐れみだよ。ここから君は子供じゃなくて、人間でもなくて、もう只のオモチャだからね。


服を脱げ。

靴下だけ履いて。

さあ、袋に入れ。

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