ショートショート「終末の恋人たち-2」

 部屋に引篭もって本ばかり読んでいる僕の彼女は、基本的に僕以外の人間と合わないで一日を終える。下手に外出すると周囲に迷惑がかかるから、と申し訳なさそうに肩を窄める彼女の仕草が僕は大好きだ。何故迷惑がかかるか、というと、問題は彼女の体重にある。2000トンあるのだ。



 たまにデートに行くと大変だ。ベンチや手摺をことごとく破損し、ウッカリ転んで舗装道路を割り、ぶつかってきた自動車が大破し、痴漢を突き飛ばしたら真っ二つになった。彼女はその度にすいませんすいませんと謝る。ぺこぺこ下げる頭の殺傷力に気づかずに。ダイエットを始め、何処でどうやって測ったのか、3キロ痩せたと大喜びする彼女を、僕はこよなく愛しく思う。焼け石にスポイトで水だよ、なんて野暮なツッコミは心の底に沈める。



 とはいえ彼女はパッと見は、いや最近は見られすらしないが、普通の小柄な美少女だ。体重が2000トンあるような素振りは欠片も見せない。僕の部屋の床をぶち抜いて、真下の部屋で寝ている大家さんごと地面にめり込んだりせず、普通に歩いて移動する。なぜかというと彼女は地面から2ミリ浮いているからで、なぜ浮けるかというと人間ではないからだ。



 2ミリ浮いてる2000トンの僕の彼女はいつも「お腹空いた」ばかり言う。彼女は基本的に何でも食べる。夜中にフラッと出て行って明くる朝満足げな顔で帰ってくる。すやすや眠る彼女の寝顔を横目にテレビを点けると、大概ニュースキャスターが喚いている。「電車が消えました」「ビルが消えました」「街が消えました」真っ二つにされた痴漢もとっくに彼女の腹に収まった。成仏したことを願う。恐怖の大王がいるなら幽霊もいて可笑しくない。



 1999年に地球にこっそり降り立った僕の彼女は僕の部屋にたどりつき、ヒッソリと順調に質量を増やし続けている。「あんごるもあ」というイカツイ本名を恥じて便宜上僕の姓を名乗っている。ある日突然巨大化して破滅をもたらすのか、それともこのまま重くなり続けてブラックホールと化すのか。破滅を和やかな気持ちで待ちながら、僕は圧し折られた椅子を修理しなおす。

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