ショートショート「頻出パターン」
「○○団地までお願い」
「……はい、かしこまりました」
「運転手さん、いま妙な顔したね」
「失礼しました、ついこの間、○○団地行きのお客様を乗せたので」
「へえ、ウチのご近所さんかな」
「お若い女性でした。時刻も同じくらい。夜遅くに」
「どこの娘さんだろう」
「妙だな、と思って色々と話しかけたんですが、返事がないんです」
「……おいおい、聴いたことあるぞ」
「やっと○○団地に到着して、振り返ったらね」
「後部座席には誰もいなかったんだろ」
「ご存知でしたか」
「あのねえ運転手さん、物凄く有名な怪談だよ」
「怖くありませんか」
「ネタが古いんだよ。ありふれた話じゃ先にオチ言われて終わりだぞ」
「本当に、怖くありませんか」
「しつこいなあ、怖くなんて……あれ?」
「どうされましたか」
「て、手が透けてる、なんだこれ、うわあ、嫌だぁ」
運転手は車を止め、消えた客が残した鞄を開き、財布が入っていることを確認する。
タクシーは再び走り出し、○○団地から遠ざかるように、夜の街へ消えていく。
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