ショートショート「ゼロ喰い」

 あんまりにもお金がなく普通以下の日々さえ送れなくなって、僕は最後の手段を使うことにした。各頂点に蝋燭を立てた六芒星の中、中近東で妖しげな老人に貰ったランプを擦る。大量の煙の中から僕の切り札、悪魔が現れた。


「オレを呼んだのはお前か?」

「ああ、助けて欲しいんだ。魂でも何でもくれてやるからさ」

「協力してやろう。いいか、俺はゼロを喰う」

「ゼロ?」

「どこから何個ゼロを食わしてくれる?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ…今借金が、2億円」

「ちょうどいいな、いただこう」

 悪魔は書類に口をつけ、麺類のようにすすりこんだ。

 痩せこけた腹が膨らんで、悪魔は満足げな笑顔を浮かべた。

「ああ、食べ応えのあるゼロだ…見てみろ」

「…あれ?借金額が、2円になってる!すごい!」

「お前のゼロを腹一杯食わせてくれたら、命まではとらないよ」

「じゃ、じゃあ、うちの築年数とか」

「ぱくっ。軽いなあ。40年から4年、1つじゃ足りん」

「では、車の走行距離」

「むしゃむしゃ。10万キロを1キロに。まだ全然」

「光熱費、ローン年数、督促状の数!」

「むしゃむしゃ」

「あ、ゲームのキャラのレベル100!家から会社まで10キロ!」

「まだまだ満腹には程遠い。これじゃお前を食うことになる」

「え!で、では仕方ない、私の髪の本数でどうです!」

「…それほど桁がないな。せいぜい喰えて5つってとこだ」

「畜生!」

 涙が滲み、視界がぼやけた。

 ぼやける…?そうか!

「ら、裸眼で視力0.001!」

「なるほど、いいだろう。あらかた満腹になった」

 悪魔は満足げに腹を撫で回した。

 幸福を手に入れ有頂天の僕に、こんどは悪魔から頼んできた。

「デザート代わりに2つほど、ゼロを貰ってっていいか」

「ああ、ああ!ありがとう!何でも持っていってくれ」

「そうかい、じゃ、遠慮なく」

 

 悪魔が手を一振りすると30歳の男は消え去り、3歳の幼児だけが残された。脱ぎ散らかした服が蝋燭を倒し、徐々にくすぶり始めているが、IQが10の三歳児は何も気づかず鼻をたらして笑っているだけだ。

 闇の向こうから笑い声。けたけた、けたけた、けたけた、桁。

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