ショートショート「スターリーヘブンズ」

そんなに急ぐこと、ないんじゃないか。



ああ、振り返らなくていい。キョロキョロするな危ないから。

生身の人間だ。いうなればここの先客だよ。

君が音を立てて開け放ったドアの上、給水塔の横にいる。別にいいよ確認しなくて。



先客っつっても君と、目的はだいぶ違うけどね。

星を見に来たんだよ望遠鏡使って。

上みてみ。足元に気をつけて。パッと見ぜんぜん無いだろ星なんて。

そこを敢えて更にじーっと睨んでみるわけ。

そうするとほら、何個か見えるっしょ都会の空にも星。

望遠鏡使えばもっと見えるんだよ。実際いまも満点の星空だからね。



一個の銀河にだいたいいくつ恒星があるか知ってる?

いっせんおくこ。バカな小学生みたいな回答だよね。

宇宙のこと調べるのおすすめだよ。なにもかもどうでもよくなるから。

たとえば自分に残された時間とか考えて鬱になるじゃん。そういうときに太陽の年齢を調べてみるわけ。余命、五十億年だって分かるわけ。なにもかもどうでもよくなるんだよね。



輝く星とちっぽけな俺、とかいう悲壮感じゃないのよ。

俺も君も元から居ないのと同じ。何やっても何もしてないのと同じ。宇宙から見れば。

だからさあ、そんなに急ぐこともないんじゃないか。

人助けとかじゃなくて単純にココが閉鎖されるの嫌なんだよ。

だから早く帰りな。遺書拾って靴履いて。



すんなり開いて驚いただろ。合鍵持ってんの、俺。はは、内緒にしといてね。

まあ犯罪だけど、宇宙から見りゃ扉、開いてないのと同じだから。

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