ショートショート「ペインゲイン」
ええと、まず黒魔術の話なんですけど。ていうかいきなり病室に押し掛けた挙句しょっぱなが黒魔術の話で申し訳ないんですけど、とにかくまあ僕、悪魔を召喚した訳なんですね。
あの取りあえず受け入れて下さい。悪魔です悪魔。話が前に進まないので。
なんで悪魔を呼んだかっていうとキツかったからです。セケンやウキヨやニンゲンカンケイが。どこにいても必ず最後には僕を笑って終わりにしようとする感じが。いつまでも慣れなくて辛かったんです。召喚した悪魔に半日かけて愚痴りました。悪魔ゲンナリしてましたよ。尻尾とか丸まっちゃって。「黒魔術師っていうかブラック魔術師だね」って言われました。
サービスしてくれたんです契約。超越者ってやつにしてくれたんですよ。
先生、あれ先生、怪訝な顔してますね。ですよね。先生がご存知の僕の高校生活、とても超越したヤツのそれじゃなかったですもんね。クラスつうか学年つうか学校全体からイジメられてましたもんね。下級生にパシらされ上級生に殴られ教師に無視され、本当に滅茶苦茶辛かった。
あの夕焼けがきれいな教室で先生は言ってくれましたよね。「いじめられるお前にも原因はあるんじゃないか」って。懲戒免職もののコメントでしたが、実はあれ大正解だったんですよ。
そう、僕はわざと一挙手一投足で周囲を苛立たせ、自ら生き地獄を作ったんです。
とにかく悲惨な、あんまりにもあんまりな3年間を作るのが僕の目的だったんです。
悪魔が僕にくれたのは、他人の運命を奪う力です。
僕を苦しめた人間から、僕を苦しめることに費やしたのと同じ時間だけ人生を奪えるんです。
分かりやすくいえば川本君。そうそう僕イジメ旗頭だった彼。川本君は毎日欠かさず3年間、僕のことを苦しめたので、本来より3年早く死にます。その分、僕が3年だけ長生きするんです。
あの頃ノートとってたんです。苦痛感じてた時間を。あの高校で通算、27万5千612時間稼げました。だいたい十年ぶんくらい、人生が延びたわけですね。
先生には感謝してるんです。僕を救わないでくれて、ありがとうございました。
あーやっぱ精神疾患扱いですか。予想してましたけど。いいですいいです信じてくれなくて。先生それどころじゃないですもんね御自身のお体のこととかで。
昔と変わらないですね先生。そういう威圧的なところも、鼻で笑う癖も、断定的な話の進め方も、口臭も濁った眼も大袈裟な咳払いも、本当に昔と変わりませんね。
先生のことを思い出すだけで、僕は気が狂いそうなくらい不愉快になれるんです。
だから本当に、先生には感謝しているんですよ。
先生の反吐が出そうな姿を思い浮かべるだけで、僕はその分、人生を楽しめるんです。
まあその分、先生の人生は減っちゃうんですけどね。
大丈夫ですか酷い咳払いだ。うわあ、本当にひどい。汚いなあ。
できるだけ長く苦しんでくださいね先生。その分ぼくが、人生を楽しめるので。
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