ショートショート「誕生危惧種」
「さあ、皆さん。
まずはこの絵を見なさい。
発砲猫だ。
銃弾並みの硬度の毛玉を、爆速で口から射出する猫だ。
毛玉に当たれば人体などひとたまりもない。致命傷となり得る。
実在は確認されていない。
だが、猫は毛玉を吐く。これは事実だ。
ある種の動物や鳥類は、消化しきれなかった部分を履き戻す。これも事実だ。
だとすれば、口から超硬質の物質を高速で吐き戻す、という進化。
そんな進化を遂げる猫がいても、おかしくないんじゃないか。
次はこれだ。吸電カラス。
きわめて鋭い爪が特徴的だろう。
これ自体も脅威になるが、最大の特徴は他にある。
鋭利な爪で覆いを剥ぎ、電線から電力を摂取するのだ。
エネルギーを充電で賄うため、ゴミを漁る必要はない。
これもまだ実在は確認できていない。
だが、カラスの知性と言うのは本当に高度なんだ。もしかしたら……。
他にもまだまだ、たくさんいるぞ。
線路をゆがめ大事故を起こし、犠牲者を食うレールネズミ。
コンピュータの基盤にたかって電気信号を啜るシリコンシラミ。
街中で意味不明なことを叫ぶ中年男性を操り、餌を集めるマチノコウガイダニ。
何度でも言おう。確かにまだ、観測はされていない。
しかし、いずれこういった生物が産まれ、人類の脅威となり得るんだ。
わしはこういった生物を「誕生危惧種」と呼んでいる。
生物学の観点から、何百通りもの誕生危惧種を類推し、日夜追い求めておる。
良いか、産まれてからでは遅いのだ。皆で駆除せねばならぬのだ。
だからこうして日夜を問わず、街頭でこのように講義を行って。
あ、待て、なぜ止めるのだ。わしが何をした。官憲め。
わしではなく誕生危惧種に目を向けろ。やめろ、痛い痛い」
……やれやれ。
街のおまわりさんは辛いもんだ。
昼からイカレたジジイの相手をしなければならないなんて。
何だよ、誕生危惧種って。
何がマチノコウガイダニだよ。お前のことじゃないか。
妄想するなら一人でやってくれ。街中に拡声器を持ち出すな。
まったくもって迷惑極まりない。
老人を交番に引き渡し、パトロールに戻る。
今日も町は平和だ。何も変わったことは……。
炸裂音がした。
脚に走る熱、そして途方もない痛み。
俺は自転車から転がり落ちた。
赤く染まるズボンの膝。
射抜かれている。
何故だ。ここは日本だぞ。どうして。
パニックになりながら銃を抜き、むやみやたらと周囲に向ける。
誰もいない。塀の上に、汚い野良猫が一匹いるだけだ。
……猫?
手負いの俺を覗き込みながら、猫が大きく口を開けた。
最期に聞いた鳴き声は、銃声にそっくりだった。
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