ショートショート「ジョン・ドー」

 奇妙な食玩を手に入れた。

 パッケージには、この手の商品にありがちな紹介写真やアオリ文句は一切無い。白地のパッケージに黒の毛筆体で、書初めよろしく商品名がデカデカと記されているだけだ。 「あのひのあのこ」と。

 ラップを剥がすと箱は二つに分かれる。数粒のラムネを詰め込んだ上部、主役を入れた下部だ。箱を開け、台座と、ビニールにくるまれたフィギュアを取り出す。手にとって、まじまじと観察する。

 ランニングシャツにねずみ色の半ズボン、坊主頭の少年が出てきた。

 抜けた前歯を自慢するように、ニカッと笑っている。


 

 息を飲むほどリアルな造詣だ。陳腐な言葉だが今にも動き出しそうだ。噂になるだけのことはある。もっとも、他にも理由はあるが。

 まず稀少性。量販店に置いていないどころかメーカーのHPも無い。私とて、地方の寂れた駄菓子屋を巡り続けやっと見つけたのだ。私は奇声を上げて店に飛び込み、迷惑そうに黄ばんだ目で睨む店主からありったけの箱を買い締めたのだ。

 そして、このフィギュア、全て一点ものなのだという。

 次から次に箱を開けていく。ランドセルを背負った少女、風船を持って泣き笑いの男の子、パジャマ、晴れ着、タキシード。みな生き生きとした表情だが、確かにどれ一つとして同じ顔のものはない。

 ここまで通説どおりだと、あの怪談じみた話も真実なのだろうか。

 この食玩のモデルは全て、行方不明になった子供達だという噂も。



 既に様々な動きが起こっている。

 感動の再会を涙ながらに報告する者。

 失踪事件に関係がある筈と製造者を血眼で捜す者。

 かつての子供そっくりのフィギュアを、懸賞金を出してまで求める家族が少なくない。何を隠そう私の狙いも報奨金だ。必死な依頼者には申し訳ないが、宝探し感覚で小遣い稼ぎができればいい、と考えていた。



 結局、懸賞金のかかった顔写真と、私が手に入れたフィギュアの顔は、一つとして一致しなかった。あれだけ苦労したのに!

 腹立ち紛れに思わず、ゴミ箱を蹴飛ばしてしまった。あふれ出すビニール袋の中に、まだフィギュアの入ったものが混じっているではないか。

 慌てて拾い上げ、袋を破いて顔を確認する。

 見覚えのある服と表情。

 フィギュアは私の姿をしていた。



 玄関から控えめなノックが聞こえる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る