ショートショート「デザイア」

 真夜中、老婆が二人して、思い出話に花を咲かせている。

 一人は町のパン屋のおかみさんだった。

 一人は往年の映画スターだった。

 長年の幼馴染なのだ。どちらともなく、人生を振り返っている。


「財産こそないけれど、素敵な夫と子供達に囲まれて、幸せだったわ」

「家族こそいないけど、富と名声をたっぷり得られて、幸せだったわ」


 それを悪戯好きの悪魔が聞きつけた。

 無理難題で二人の友情を裂こうと、突然現れてこう言った。


「お前たちの願いを叶えてやろう。欲しいものを与えてやろう。

 ただし願いは一つだけ、二人に同じものを与えてやる、ひっひひ」


 二人の老婆はほとんど同時に、互いを指差しこう言った。


「では、この女にとびきりの不幸を」

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