ショートショート「予言とペンギン」

 保育園での不思議な出来事?ええ、ありますよ。

 ユーレイとかそういうんじゃ、ないですけれど。



 赤いペンギンの絵を描く女の子がいたんです。

 怖い雰囲気はないんですよ。

 胴体はまん丸で、手足がすごく短い。

 顔とくちばしは真っ黒で、いつも大きく口を開けてるんです。

 あともうひとつ、イワトビペンギンってご存知ですか?

 頭の後ろに羽が生えてるんです。

 赤いペンギンの頭にも、ポニーテールみたいに長いのが生えてました。

 そんなカラフルな鳥が、おゆうぎ会の絵にも、遠足の絵にも、いる。

「これはなにかな?」って訪ねたら、素敵な笑顔を浮かべてね。

「わたしたちを、たすけてくれるんだよ」って。

 あとはニコニコするだけで、何も教えてくれないんです。



 年の暮れでした。保育園で、やきいもをすることになってね。

 みんなに落ち葉を掃いてもらって、焚き火をしていたんです。

 ところがそこへ、急に強い風が吹いた。

 登り板、ってわかります?ようは逆走できる滑り台みたいな遊具です。

 火のついた薪が風に流されて、その登り板に、引火したんですよ。

 大きな炎でした。わたし、すっかり動転してしまって、園児たちは怯えて泣き出すし、炎は風にあおられてどんどん大きくなる。

 パニックを起こしかけたとき、突然、あの絵を思い出したんです。



 ええ、無事に炎は消せました。消火器のおかげで。

 目玉はピン、くちばしはグリップ、羽はホース、だったんですね。



 ただ、わからないんです。どうしてあの子が消火器の絵を描いてたか。

 そして、どうして私はすぐに、消火器を持ってこれたのか。

 なんだか、消火器のほうが駆けつけてくれた気がするんです。

 私たちを助けに、イワトビペンギンみたいにぴょんぴょん跳ねて、ね。

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