ショートショート「アメリカナイズド」

 万雷の拍手と指笛が天井から流れてくる。 


 妻は朝食の配膳をしている。

 扉が開き夫が入ってくる。万雷の拍手の中、朝のキスを交わす二人。



「おはよう、ひゅう、いい匂いだ」

「おはようダーリン。焼き具合は貴方の好きなウェルダンよ」

(と、皿に載せたトーストを見せる。肩を竦める夫)

「最高だね!これがステーキだったら、もっと良かったんだけど」



『HAHAHA!』と笑い声。



「コースケはまだ、起きてこないのかい?」

「もう!昨日も夜更かしして起きてこないのよ。貴方を見習ってほしいわ」

「いいじゃないか、ぐっすり眠れるのは子供の特権さ」

「でも・・・・・・」

「僕もホントなら朝まで眠ってたいよ。君と一緒にね」



『WAAAAO……』と溜息。笑い声。夫にしなだれかかる妻。



「貴方・・・・・・」

「おはようパパ、ママ」



息子がリビングにやってくる。慌てて離れる二人。笑い声『HAHAHA!』



「こ、コースケ!遅かったじゃないの」

「もう少し寝てたほうがよかったかな?」

(笑い声『HAHAHA!!』。夫、慌てて息子を抱き上げる)

「こらこら、お母さんを困らせるんじゃない。

 お前のトーストがBBQの墨みたいにされちゃうぞ」

「ぼく、BBQのほうが好きだもん」(笑い声『HAHAHA!!』)



「こんなに愉快な朝食は初めてだ。まったく、すごい空気清浄機だな」

「アトモスフィア・クリーナーでしょう?今までの家電と一緒にしないで」

「メカには疎くてね。買ってきたのは僕だけど」

「つまり『場の空気』をキレイにするメカなのよ。ぎこちない空気、気だるい空気、そんなのを中和してくれるって優れものなわけ」

「素晴らしい説明だね。まるでドラマみたい」(笑い声『HAHAHA』)

「ネットで落とした中古品でも、海外製はやっぱりパワーが違うわね」

「全くだ・・・・・・会社に行くのが名残惜しいや」

「学校に行くのが、なごりおしいや」(笑い声『HAHAHA!!』)

「そんなこと言わないの・・・・・・行ってらっしゃい、二人とも」



(見送りのキス。出て行く二人、皿を片付ける妻、拍手)


(夕刻。説明書片手に落ち着かない妻。夫が帰ってくる)


「ただいま、ハニー」

「おかえりなさい貴方・・・・・・早速で、悪いんだけど」

「いいかい?今日は実に15件もクレームを処理したんだ。

 今更一件増えようと同じことだよ。なにがあったんだい?」

「こんなこと言い出すのもヘンだけど・・・・・・おかしくない?この雰囲気」

「・・・・・・君も感じてたのか。

 確かに僕らは朝からちょっと、ウィットに富みすぎてるね」

「ジョークを言うたびに笑い声が流れるし・・・・・・

 気になって確認してみたの。これ、欲しかったメカと微妙に違うみたい」

「何だって!?空気清浄機じゃないってのか」

(笑い声『HAHAHA!!』)「アトモスフィアコントローラーよ!!」

「また笑われちまった。で?このメカ、どんな作用があるんだい?」

「簡単に言うと、アメリカのホームコメディの空気を作る機械なのよ。

 名前は『エアー・スターズ&ストライプス』。

「日本語にすると」

「『空気星条旗』ね」


両手を上げて肩を竦める二人。

万雷の拍手が天井から流れる。

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