ショートショート「クワイエットルーム」

 何から何まで、こんなにうまくいくとはねえ。



 きっかけは上司の説教でした。よく怒られたんですよ私。

 同僚の前でがみがみと。

 新しい発想を持て、だとか、人とは違うことをしろ、とか。

 大声で叱責され続けると頭がぼうっとして仕事にならないんです。

 そして、次の週も怒られる。どうどうめぐりですよ。

 なんとかしないと、と思ってたら、とつぜん面白いこと閃いてね。



 うちの工場で作ってるバイク用のサイレンサー。

 あの消音機構を、幼児用のおしゃぶりに組み込んだんです。

 改良を重ね、泣き声の音量を99%カットすることに成功しました。

 最近は赤ん坊そのものを迷惑がる風潮です。

 きっとニーズがあると上層部を説得して、量産ラインに乗せたんです。



 案の定、大ヒットでした。

 もちろん早い段階で抗議はありましたよ。幼児の安全性とかなんとか。

 そんな反対意見も、過剰な注意書と需要に消されてしまいました。

 


 大ヒットの裏には隠れた需要がありました。

 ゴム製の先端部がちょうど、成人の耳にフィットしたんですね。

 消音機構部を外に向ければ、騒音を99%カットする耳栓になった。

 これに気付いた一部のユーザーが2個セットで買っていくんです。

 滑稽ですよね。まあ、じきに耳栓の開発も始まるでしょう。



 自分でも驚くくらい、予想通りに事が進みました。

 


 ええ、ぜんぶ予想できてました。

 私の上司のあなたが新製品のアイデアを横取りすることも。

 そして出世して社長室で仕事をすることも。

 流行りに乗りたがるあなたが、耳栓代わりに使うことも。

 私が部屋に入ってきたことに、気づかないだろうことも。



 1%まで抑えた悲鳴は、誰も聞きとらないだろうことも。



 ああ、やっと静かになりました。

 これで100%、計画達成です。

 これで100%、消音成功です。

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