ショートショート「マスクのヒーロー」

 マスクのおじさんのパンチで、悪者が吹っ飛んだ。

 まるでマンガみたいだ。

 目を丸くする僕の前におじさんが立ちはだかる。たくましい背中だ。

「二度とこの辺りで暴れるんじゃないぞ!」

 一喝されて悪者が、すごすごと逃げていく。

 振り返ったおじさんの目は、マスクの奥で笑っていた。

「坊や、お守りをあげよう。助けが欲しいとき、私の顔を思い浮かべ、これを強く握ってくれ」

 マスクのおじさんがくれた小さな袋は、とてもきれいな緑色で、受け取ると意外に重かった。

「素晴らしい未来のために私は戦う!さらばだ、少年!」

 感動でお礼すら言えない僕をおいて、おじさんは颯爽と去って行った。

 本当に恰好よかった。おじさんは平和を守ってくれるんだと思った。

 間違いだったけど。



 突然そこら中で発生しだした自爆テロで沢山の犠牲者が出た。

 捜査は難航した。それでも大人たちは真相を探し続けた。

 そして、目撃証言や、監視カメラの映像から、遂に爆心地が割り出された。

 実行犯は全て、子供だった。

 大声で助けを求めながら、緑色の袋を強く握って爆ぜた、子供だった。



 助けを求めなかった僕は、結果的に助かった。

 聡明な軍人さんが、優しい言葉で僕から、起爆装置を取り上げてくれたから。

 僕は兵役についた。僕を救ってくれた軍人さんに憧れて。

 そして、地位と、有能な部下と、能力を手に入れた。

 

 

 だから僕は、妙な話だけど、ある意味で感謝している。

 僕を救うふりをして、僕を兵器にしようとした、目出し帽のおじさんに。

 つまり、この置手紙を読んでいる、あなたに。


 

 感謝のしるしとして生け捕りにしました。

 ただ、その部屋からは出られません。絶対に。

 緑色の袋をお返しします。雷管と火薬を入れ替えておきました。

 どうしても助かりたいときは、大声で叫びながら、袋を強く握ってください。



 救ってもらえ。お前の正義に。

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