ショートショート「フォーサイト」
生まれつきある妙な力については改めて説明するのが難しい。俺にとっては当たり前のことで意識しだしたのも最近だしな。まあ、分からなくても構わない。とりあえず聞いてくれ。
俺は、端的に言うと、人に見えないモノが見える。
霊感?違うんだ。確かにこの世のものではないけれど。
幽霊ってのは死んだ人間の姿だよな。
そうじゃなくて俺には、まだ生まれていない人間の姿が見えるんだ。
見分け方は簡単。あいつら全員素っ裸なんだ。そりゃそうだよな。見えるのは未来の人で、服や景色じゃないんだ。
この力は先祖代々受け継がれるものらしい。ウチの実家にはその手の逸話が掃いて捨てるほどあるんだ。
たとえば祖父はかつて、近所の山林から人々が出てくるのを見た。それも列をなして、目で追えないくらい高速で移動していたらしい。
利に聡い祖父は大枚をはたいてその山を購入した。直後、周辺一体に新幹線の開通計画が持ち上がったんだ。祖父は土地の転売で莫大な利益を得た。おとぎ話みたいだけど事実なんだ。
親父はもっと傑作でさ。子供のころから未来人はみんな悩んでいると思っていたらしい。一様に俯いてじっと手のひらを見ているから。
だから暫くは本気で手相見を目指していたらしい。ある時あわてて技術者の道を選んだけどね。そう、スマホだよ。
そんなわけで未来の人影がうじゃうじゃ見える暮らしが、俺としては普通の、当たり前の生活だったんだ。
ここまでは分かってもらえたかい。
それじゃ本題に移ろう。俺が日本を出た理由だったな。
消えたんだよ。
突然いきなり藪から棒に、未来の人影が見えなくなったんだ。
わかるかい、それってさつまり。
俺のいる街には、近いうち誰もいなくなるってことなんだよ。
俺は最後に見た未来の人影の挙動を思い出した。
連中は上を向いて、空を指差していた。叫んでるみたいに口を開けて、まるで飛んでくる何かを見つけたみたいに。
悪いことは言わない、お前も早くその街から離れるんだ。
間違いなく良くないことが起こる。そこに未来はないんだから。
もしもし?おい、なんだ今の大きな音は。おい!もしもし……。
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