ショートショート「ゲームキッズ」
ごめんなさいお母さん。ぼくが悪かったんです。
二度としません。お母さんに恥をかかせません。反省しています。ごめんなさい。
……違う?お説教じゃない?それじゃあ、話ってなんなの?
……無くしたと思ってた。そのノート。
見つかっちゃったか。いいよいいよ。ぜんぶ話す。
びっくりしたよね多分。お母さんのことばっかり書いてあるから。
僕としては内容より、こんなに沢山お母さんがキレてたことに驚いてほしいんだけどさ。 ああ、愚痴の羅列じゃないんだ。被害報告でもない。
確かに殴られたことや怒鳴られたことも詳しく記録してるけど。
そのノートはまあ、資料だよ。お母さんの攻略本を作るためのね。
毎日毎日、ひたすら怒られてるうち、ふっと気づいたんだ。
お母さんの説教って、毎回同じ流れだな、って。
だったらもし、攻略本あれば簡単にプレイできるんじゃないかなって。
ほら僕お母さんが言うところのゲーム脳だから。
説教ってさ、とどのつまり、リズムゲームなんだよね。
タイミング図って泣いたり謝ったり反省したりするっていうゲーム。バトル開始のタイミングがエンカウント方式ってのが特徴なだけで、怒られ方は結局は単純なパターンの組み合わせだし。
まず研究したのがイベント開始のトリガー、つまり怒られる理由ね。
次にイベントの発生頻度ね。お母さんがイラつきやすい時間帯とか曜日とか。
それから勿論バトル、つまりお説教について。
お母さんの攻撃呪文、決まり文句とか理論展開を分析して、どう対応したら一番早くターンが終わって、ダメージを最小限に抑えられるかを割り出したわけ。
そんな下らないこと今すぐ辞めなさい、って言いたそうなため息だね。
もうやってないよ。完成したから、お母さんの攻略本。
去年の夏休み。ぼく、メチャクチャ反抗的だったでしょ?お母さん本当に毎日ぼくを怒鳴りつけて、なんなら入院させようか、くらいのこと言ってたけど、秋から急に落ち着いたでしょ。
うん、あれが総仕上げ。要はお母さんは、半年前に僕に全クリされてるんだよ。
「誰に向かって口を聞いてるの!」
びっくりした?息子がハモッたから。分かるんだよ言うこと全部。
「どうしてこんな子に育ったのかしら!」
二連続。だからさあ攻略済みなんだって。
お母さんのスペックから考えて、多分これ以上のアップデートも無理だろうし。
ローディング長いねお母さん。何考えてるか当てようか?
外部機関でしょ?病院とかカウンセラーとかに僕を投げようとしてるよね。
別にいいよ。どこ行っても同じことやるし。クリアする方法考えるだけだ。
攻略本?ああ、今は持ってないよ。
すごく欲しがってる人に売っちゃったから。
ほら、お父さんが帰ってきた。課金アイテムのケーキ持ってる。
攻略本通りだ。いま一番効果的な装備だよ。やったねお母さん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます