ショートショート「アンファンテリブル」

5月17日

きょうは道とくのじゅぎょうがありました。

先生が「ほかの人の気持ちをわかる人になりましょう」といいました。

でもそれは、すごくむずかしいことだと思います。

ちょうのう力者ならすぐわかるんだろうけど。

人の気持ちがどうやったらわかるのか、今もずっと考えています。



先生より

授業中、ずいぶん真剣な顔をしていましたね。

いっしょうけんめい考えているんですね。先生はうれしいです。

そうやって考えることが、一番たいせつなことなんですよ。



5月20日

図書しつの本で、人間の気持ちについてしらべました。

人間の気持ちを動かすのは、脳だということが分かりました。

うれしいとか悲しいを感じると、脳の中に電流が発生するそうです。

レンジやテレビみたいに、ぼくたちも電気で動いていると思うと、おかしくなりました。



先生より

びっくりしました、あれからずっと考えていたんですね。

自分で本を読んで調べたんですね。とてもえらいと思います。

脳のはたらきについては、二学期に理科で習います。

いろいろなことに興味をもって、勉強していきましょうね。



6月13日

先生、ぼくはものすごい発明ができそうです。

それは、他人の気持ちがわかる機械です。

人間の気持ちは、電気で動くという話を、前に書きました。

脳のなかの電気の動きがわかれば、人の気持ちはわかるはずです。

この機械が完成すれば、みんなほかの人の気持ちがわかります。

佐々木くんと原田くんに話したら、おもしろそうだといってくれました。

きょう、さっそくぼくの家で、会ぎをひらく予定です。



先生より

むずかしいことを考えましたね。

そこまでしなくても、ひとの気持ちはわかると思いますよ。

でも、友達ができてよかったね。

佐々木くんも原田くんも、先生にうれしいと言ってくれました。



8月17日

先生、遂に装置が完成しました。

電極を対象者の頭部に挿入し、脳内に発生する微弱な電流を解析します。

モニター上で他人の感情をシュミレートするプログラムは、佐々木が開発しました。 既に数件の動物実験を済ませ、喜怒哀楽をある程度判別することに成功しています。 最終フェーズである人体実験については、被検体の選定に手間取っている状態です。

被験者に対する施術は、医療技術に長けた保健委員の原田に任せます。



先生より

この2か月で何があったのでしょうか。

君たち三人の熱意と努力は認めます。ですが、目指す方向が間違っています。

どうか今一度、他人の気持ちについて考え直してください。



9月23日

僕たちの感情測定機に、大幅な改良を加えました。

脳に特定の電流を流し、他人の感情、ひいては性格をコントロールする機能です。

先生、今日はとても授業がやりやすく感じませんでしたか?

いつもぎゃあぎゃあと喧しい長谷川が、妙に大人しくなっていましたよね。

そうです。彼が第一の被検体です。

僕は人の気持ちを作り出すことに成功しました。世界はもうすぐ平和になります。



先生より

明日、親御さんと一緒に、職員室に来てください。



9月24日

今日は両親を連れて来れず、申し訳ありませんでした。

僕も佐々木も原田も、いつも家では一人なので。

最後まで議論が平行線を辿り、最終的にこんな結末を迎えてしまったのは残念でした。 だけど僕たちは、そんな一生懸命な先生の姿が好きでした。

先生、これからぜひ、僕たちとなかよくしてくださいね。



せんせーより

あなたわ すごい ささきくん はらだくん すごい とても えらい

せんせー まちがってました なかよし みんな なかよし

わかってくれて ありがとー わかった ありがとー

せんせーわみんなと ともだちでつ

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