ショートショート「スマイルズ」
陳列棚に半透明の熟女の首が浮いていた。
紙おむつを手にとった瞬間、目が合ってしまった。
熟女はニッコリ笑って消えた。俺は数秒硬直して、レジへ向かった。
コンビニを出た。
駐車場に停めた俺のワゴンに、半透明の工員が寿司詰めになっていた。
揃いの作業服の彼らは、ドアを開けると一様に笑顔を浮かべ、消えた。
町は半透明の連中のせいで、いっそう混雑していた。
ショーウィンドーの中で優雅に笑う奴もいる。
信号機の上で敬礼している奴もいる。
とんでもなく巨大で、とんでもなく鼻持ちならない面の中年がいた。
その中年はケラケラ女じみて、俺のマンションに寄りかかっていた。
「気が狂いそうだ」
俺は帰宅するなり、妻に紙オムツの袋を投げつけた。
「なんだあの連中は。なんでみんな笑っているんだ」
「いいじゃないの、笑顔のほうが見やすくて」
妻は手慣れた様子で飛来物を掴んだ。
「知ってるでしょ、法律なのよ。これからは何だって、生産者の顔を表示しないといけないの」
「だったら写真でいいだろう。よりによってホログラフィなんて」
「流行りなのよ。そのうち慣れるわ」
「こんな亡霊だらけの風景にか」
「慣れたじゃない。少なくともあの子は」
妻の目線の先、ベビーベットの中で、息子が歓声をあげた。
きっと視線の先で微笑んでいるのだ。彼の生産者が。半透明の私と妻が。
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