第82話

蓮人を鍋島家の親族へと里子に出した後、その家族からという名目で感謝を示す金を由香里はもらっていた。


その金は鍋島が由香里を騙す事への罪滅ぼしの意味合いでもあったのだろう。



全てを失った彼女は酒に溺れ、行きずりの男とホテルに行くことも度々あったらしい。


羽振りの良い彼女に付け込んで悪い男もいたらしく、甘い言葉を吐きながら適当な同情を買い由香里から現金をせしめていく男たち。



男に頼られることに救いを見出していた由香里は借金をしてまでも男たちに貢いでいたみたいだ。



俺の家に尋ねた時は借金まみれになっていたらしい。



俺はその事実を佐藤らから聞いて恐怖を覚え、唯一繋がっていた電話を新しいものに変えた。

信じてあげようと話していた手前、この事実を乙葉には伝えなかった。


金が絡むと人は豹変する。

それを身に染みて分かっているつもりだから。


母親は悪い男に騙され続ける負の連鎖に気づいたのか男と付き合うことを辞めてくれたからよかったけど、由香里が母親の言葉を忠実に守るかどうかなんてわからない。


一度涙を見せて改心したように見えても、借金に追われる人の恐怖心はその人の意思や志なんかを一瞬で滅茶苦茶にしてしまう。



罪悪感はあれど、俺は由香里を救うつもりもないし、巻き込まれるのも御免だ。


これで家族を守れると自分に言い聞かせ蓋をした。

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