第69話

食後の皿洗いが終わった後、携帯が震える。


俺の”ご心配なく”というRE:に、”それでも待ってる”とRE:RE:がついていた。


『そう、ご勝手に』





当日、もちろん俺は指定された店に赴くことなく乙葉が待つ家へと帰った。


行かないと連絡入れたのに終始メールが鳴りっぱなしで、それじゃ飽き足らないのか電話までよこしてくる始末。



なるべくなら彼女に知らされないまま問題を終わらせたかったけど、そうもいかないみたいだ。


何よりコソコソと席を外す方が不審に思われるだろう。



「あのさ、勘づいていると思うけど、元配偶者から連絡がきてる。これからその対応として電話やメールに忙しくなるかも知れないけど、俺が大切にしたいのは君とお腹の子だから。そこ、信じてくれるかな?」


「あったり前じゃん。そんなの言われなくても分かってたよ」


「そう、ありがとう。君たちに危害が加わることが無いように済ませたい。酷いようなら実家に帰ってもらったりするかも知れないから用意しておこう」


「この家、特定されてるかな?」


「ここに辿りつくことは出来ないと思うよ。俺サイドやあっちサイドの友達が俺たちの情報を完全にシャットアウトしてくれているし。唯一ありそうなのはあまり事情を知らない結婚式の招待客から結婚の話を聞いたのかも。接見禁止にしてるから姿を現すことはしないだろうし、もし来たら約束通りの金を払ってもらうまでだ」


「電話やメールはその対象にはならないの?」


「それは弁護士さんの助言もあってしなかったんだ」



由香里が連絡を取れないようにするのは簡単なことだけど敢えてそうしなかった。


そのほうが相手の動向が分かると言われたからだ。


生活に困って俺に連絡してくることは遅かれ早かれある。



そんな時、着信拒否をしたりメルアドを変えて連絡がとれないと分かったものなら、人は何をしでかすのか分かったもんじゃないと。



しかしまあ…二年かあ…。


これだけの年月、よく持ちこたえたと褒めるべきか?


反対に言えばそれだけ俺に連絡するのはプライドが許せなかったとも捉えられるが。



「とりあえず、相手の動向が分かるまで連絡に応対する。内容は前に言った通りどうしようもないから君には見せたくない。君とお腹の子に少しでも”毒”になりそうなものに触れさせたくないんだ。それだけは分かって欲しい」


「分かった。でも、一人で抱え込んでヒロ君は大丈夫なの?過去のこととかさ、フラッシュバックして苦しんだりしない?」


「一人で抱え込む気なんてさらさらないよ。いつもの奴らに毒をさらして中和してもらうさ。酒の席でいいスパイスになるだろ?」



おどける俺のセリフに乙葉は安心したように笑っていた。

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