第54話

思ってもいなかった待遇の良さに面食らった。



一瞬、由香里の両親に挨拶へ行った時の対応の悪さがフラッシュバックした。


”鍋島清掃の息子と付き合っていたのに、それに逃げられてこんなつまらない男と結婚するのか。後ろ盾のないただの男ではないか”


多分そんなことを考えていたのだろうと、今ならあの両親の思考が分かる。

どうあがいても認めてもらえるポイントゼロだったのに、何も知らない俺は一生懸命に元義両親に気に入られようと必死だった。



靴を脱いで揃えるまで、そんなことを考えていた。

人間は僅か数秒で色んなことを思い出せる凄い生き物だよなとか、どうでもいいことを考えて過去の気持ちに蓋をした。




彼女の両親は温情深く、バツイチな俺との交際を認めてくれた。



離婚した人間に不安はないのかとやんわり聞いたけど「まったく」と、どちらも同じ回答だった。


理由は「乙葉が惚れた男」だかららしい。



「すぐに分かるよ。乙葉がいつもと違う目で君のことを見ているってね」


「そうねえ、ゲームしている時もこんな表情したことないものねぇ」


「もう、恥ずかしいから止めてよ!―――ちょっとお茶淹れてくるから。ヒロ君?コーヒーブラックでいいよね?」


「うん、ありがとう」



俺の返答を聞いてニコッとしながら台所へと消えていく乙葉。



「あらあら、もう妻みたいに振舞ってるわね。ヒロ君?あんな子で迷惑じゃないかしら?」


「いいえ、全然!先に惚れたのは自分の方ですし、嬉しいですよ」



「そうなのか?無理やり連れて来られた訳じゃないんだな?」


「ええ?違いますよ」


「そう、よかった~。あの子が現実の世界の男性に興味持ててよかったわ。初めはまた芸能人のパネルでも持ってくるんじゃないかって、ねえお父さん?」


「うんうん、あの時はガッカリしたよな~。そろそろ、いい男を見つけろとか、連れて来いって急かしたからな~。母さんなんて張り切ってご馳走まで作ってたってのに」


「ウフフフ、そういうこともありましたわね」




乙葉さん

・・・・・過去にそんなことをしでかしてたんだ・・・。


うん、彼女ならやりかねないな。



何でも彼女は今まで男っ気がなく、更に生活に困ることがないくらい稼いでいるので、このままだと独り身で生きていくのだろうと思っていたのだとか。



パネル事件以降、乙葉に催促するのはやめたのだとか。


彼女がそれでいいのならば何も言うことはないと決めたのだが、親としてはそんな人生を送る娘を心配しながら老いていくのは心許ないそうで、俺という存在が居たことが嬉しかったようだ。

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