第55話
乙葉が入れてくれたブラックを啜りながら談笑が再開する。
会話の中で彼らの家族の仲の良さがわかる。
お互いに思い合っている様子も、信頼していることも伝わってきた。
俺が幼少期もその後の結婚生活でも築くことのできなかった”家族の絆”が、ここに当たり前のようにあった。
それが羨ましかった。
もしこういう両親に育てられたら、何かがかわっていたのかな・・・なんて、考えたってどうしようもないのに、想像は勝手に止まってはくれなかった。
それから夕食までご馳走になった。
食べられないものが何点かあるから申し訳なかったけど。
泊まっていけとお父さんに言われたけど、何とかそれを乙葉がやんわりと断ってくれた。
俺たちはまだ体の関係がない。それなのに彼女の両親がいる家で寝るのはどこか気恥ずかしかった。
「ごめんね、ヒロ君。疲れちゃったでしょ?」
「ううん、楽しかったよ」
「そう?なんかちょっと、元気がないように見えていたから」
「――――大丈夫。どこも悪くないから心配しないで」
”ただ、どうしても過去の不憫な思いが離れなくてね・・・”
その言葉は心の中だけに留めておく。
我ながら女々しい。
育ちのせいでこうなったとか、成人した男が思うだけでもダサすぎる。
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