第16話

「これからどうしたい?」


「どうしたいって…そんなのまだ分からない」


「このことを問い詰めるか、知らないフリをするのか。

問い詰めるなら再構築するのか離婚か。その場合は親権のこともあるし、その後の養育費のこともあるしもちろん不貞に対する慰謝料とかも両者からとれると思う。でもまず、お前がどうしたいか気持ちが固まらないうちは下手に嫁さんを問い詰めない方がいいな。下手して先回りされて、ありもしない疑惑をでっち上げられたら大変だし」



「そうか、そうだよな」



「俺の会社でも同じような目にあった人いるんだけどさ、会社の顧問弁護士から離婚案件に強い人を紹介してもらってたんだ。被害にあった人は同じ部署で話せる仲だし、お願いしたら紹介もしてもらえるよ?」


俺は由香里の気の迷いなどとお気楽に考えていたけど、佐藤はずっと先のことを現実に起こりうる事を見越して考えてくれていた。



そのことには凄く感謝するのだけれど、人から聞いた話を鵜呑みにするのもどうかと思い始めていた。


まずは自分の目で確かめないと、どこかまだ由香里を信じたい気持ちが消えずに前に進めない気がする。




「佐藤の事を信頼していない訳じゃないんだ。なんていうか、その—――」


「うん、それは普通だと思うよ。友達より家族を信じたいって誰だってそう思うさ」


「悪いな」


「いいんだ。自分のタイミングもあるだろうし。でも、一人で抱え込んで悩むなよ?俺もこんな事をお前に知らせてる時点で腹くくってるから」


「ありがとう。心強いよ」




高校生の時、先生が授業中によくしていた気まぐれ話の中で「友達は恋人より大事にしないといけない」と言っていたことがあった。


『恋人や家族は縁が切れたらお終いだけど、友達は一生の付き合いだ』と。



あの時はよく分からなかったし、女子からもブーイング受けてたけど今ならその意味が分かる。


最も困窮に陥った時、こうやって手を差し伸べてくれる存在なのだから。


母親には多分相談できない。


彼女も同じような事をして親父に見切られた人であるから余計に。



家族でも兄弟でもない”友達”という存在に俺は心を救われていた。

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