第17話

『パパ!おかーりー!』


佐藤と呑んだ帰り、蓮の声を頭の中で再生させながら玄関のドアを開けるけど、いつものように暗い室内に自分の靴を脱ぐ音だけが小さな玄関に響くだけだった。



寝室へ向かい当たり前のように内側からかけてある鍵を素手で解除する。



「な、なによ」


「ただいま、今帰った。佐藤と呑んできてさ」



少しだけ由香里が慌てて携帯を閉じる。

もしかしたら例の男とメールのやり取りをしていたのかも知れない。



そこに少しの怒りを覚えて由香里にキスしようと顔を近づけた。


「なに?!やめてよ」


「キスぐらいいいだろ?」


「嫌だ!やめて!」


「どうして?夫婦だろ?」



ここでどんな答えが返ってくるのか知りたかった。


由香里?君は若い男と遊んでるだけだろ?

真剣な恋じゃないよな?


最後に選ぶのは俺だろう?



「もう!やめてよ!」


「なんで?」


俺は少し悲しそうな表情を浮かべて聞き返した。


由香里は男の弱さを垣間見ることに嬉しさを感じるところがあるというか、見過ごせない気性がある。

実際、結婚前はそれで何度も慰めてもらっていた。


もちろん、自分としては愛を深めるための材料に過ぎなかった。

それに弱いって分かりながら演じていたんだ。


今回も演技が入ってるけど、足をばたつかせてまで拒否する姿にどこか絶望しかけていた。



「お、お酒臭い人とキスするのヤダ」


「そう――――分かった。じゃあ歯を磨いてくる」


「それでもヤダ!…しばらくはあなたとそういう事をしたくないの」


「――――そうか…」



この瞬間、彼女への想いは消えた。


いままで彼女に抱いていたものが全てなくなったんだ。

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