第71話

言葉の途中でぶつ切りした。笑い声が出そうだったし。


悩み事?


何の話だろうな?



鍋島が自分を捨てて他の女と結婚したこと?


実の両親に慰謝料の金は肩代わりしただけだからやっぱり自分で払えって給料から搾取されてること?



それとも、自分に子供はやっぱりいらないとか鍋島に言われて、蓮人を鍋島家の親族に養子へと騙されて出してしまった事?



由香里にはこっちの情報がはいらないけど、彼女のことはある程度話が伝わってきていた。



何人もの人を介してるから、事実は少し違うかもしれないけど。




蓮人にとって由香里に育てられることは不幸なことでしかなかったからそれでよかったとは思っているけど、息子をあっさりと手放す神経が俺には分からない。



あんなにも腹を痛めて、苦しみながら産んで—―――それで・・・。



〖コンコン〗



乙葉が車にいる俺を迎えに来ていた。


エンジンもかかっていない暗い車内で携帯を握りしめている姿は異様に見えただろう。




「――――風邪、ひいちゃうよ?温かいコーヒー淹れたから帰っておいで」


「うん、ありがとう」




由香里のことはすでに関心がないからそこら辺の草と同じくらいにしか思えない。


けど、蓮人のことを思い出すと胃がキリキリと痛む。



彼は新たな場所で幸せに暮らしている。


俺のことなんて欠片も覚えていないだろう。



それが、今の彼にはいいことだって、分かっているけど・・・・。


なんというか――――


凄く悲しくて、やりきれなくなるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る