2、理想と現実
第9話
醒め切った中でも俺はよき夫や父親だったと思う。
よき夫になってたのは妻に愛されたいが為。
だから俺は世の中の妻がされて嬉しいだろうことをリサーチして、それを健気に実行していた。
彼女の小さな呟きも見逃さず、即解決できるようにと努めた。
よき父親は蓮人まで俺を冷めた目で見られたくなかったからだ。
蓮が生まれた時は嬉しくて涙を流しながら妻に「ありがとう」と何度も伝えた。
それを聞いた彼女も涙を流していて、何度も頷いてくれていた。
後にも先にも感情をあんなにも出してくれたのはあの時だけだった。
蓮人はぷっくらしていてそれでいて妻に似ていて可愛いってものじゃなかった。
目にも入れても痛くないとはまさにこういうことなのか―――とさえ思うほどだった。
息子が出来たらしたいことはいっぱいあった。
まず、キャッチボール。
でも妻に即却下された。
「将来野球チームに入りたいって言ったらどうするの?どのくらいお金かかるか知らないでしょ?道具一式揃える他にも遠征費だって凄くかかるのよ?」
「独身時代からの貯蓄があるから、そこから出せばいいよ」
「そうやってお金の事しか考えないのね。誰が送り迎えするの?このまま専業主婦は嫌ですからね」
「じゃあ、俺が土日予定が入ったら調整するよ」
「営業職は接待がなんぼの世界なんでしょ?そんな事言って仕事先との付き合いが切れたらどうするの?」
「大丈夫だよ。土日の接待を蹴って信用を失うような仕事はしてない」
蓮人がまだボールを掴むことも出来ないころに話した会話。
結局このことがあって二歳を迎えそうな今もその夢は果たせていない。
最初は金の心配をしていたのか、それともスポーツ少年になったら怪我をすることを恐れていたのかなと思っていた。
でも、最近は違うように感じる。
きっと妻は俺と蓮人の間に絆ができる事をよく思っていないんじゃないかって。
二人でわちゃわちゃしてる時の冷たい目線。
それがそうだと思わせる。
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