第77話

リビングに通してソファに座らせ、乙葉は少し離れたダイニングチェアに座ってもらう。


由香里は離れた場所にいる乙葉に気持ち頭を下げながら話始めた。



「浩紀さんを解放してあげて下さい」


「・・・・」「・・・・」「・・・・」


「彼は生涯私の夫なんです。バカな私のせいで悲しい思いをさせてしまったけど、もう大丈夫なので返してください」



皆黙って由香里の話を聞いていた。



「浩紀さんはとても責任感が強い人なの。だからあなたとこうなってしまった以上、最後まで責任を持とうとしているのよ。わたしがこんな事を言うのもなんだけど、浩紀さんの幸せを考えて下さい」


「――――あなたの妄言に付き合ってる時間はありません。帰って下さい」


「妄言じゃないわ。浩紀さんは私のことが好きなのよ。あなたには辛い事実かもしれないけれど諦めて」


「…妄想には付き合わないって言いましたよ?」


「妄想じゃない!これは事実よ!だって、浩紀さんはあんなにも私のことを愛してくれたもの!何度も好きだ、愛しているって言われたわ!」


「何年前のことを話しているんだ?」


「何年経っても気持ちはそうそう変わらないはずよ!」


「――――君の言う通り、早々は変わらないさ。それはお互いの信用ありきの話だ。僕はあの時、君に不信感と不快感しかもてなくなったんだよ。君に気持ちなんて少しも残っていない」


「――――嘘よ!だって、電話ではあんなに優しく話してくれるじゃない?この人がいるからそんなことを言うのでしょう?わかっているから、後は私に任せて?浩紀さん」


「――――俺が電話口で優しくしてたのは妻を守るためだ。君に気があるからじゃない」


「――――そんなの信じないわ!ねえ、あなた、浩紀さんに愛されてるって感じたことある?彼はね、私の為に掃除をしてくれたり料理を作ってくれていたのよ?毎日のように。あなた、そんなことされてないわよね?浩紀さんが作ってくれないからあなたが用意しているんでしょ?それって、わたしほど愛されていない証拠だと思わない?」


そのセリフでここに来たのが今日だけじゃないことが分かる。

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