7、愛されてただけの人

第64話

旅行の後からお互いの気持ちも固まり、結婚に向けてトントン拍子にことが進んでいった。


指輪を用意して人生二度目のプロポーズを彼女の家ですると、乙葉はそれを涙ながらに受け入れてくれた。



それからは忙しい毎日だった。


それぞれの両親へと改めて挨拶に出向いたりお互いの友達へ紹介したり。



俺の友達が集まるとなれば場所はおおむねいつもの大衆居酒屋と決まっている。


一件、品がありそうに見える乙葉だけど中身は男に近い。


すぐに相沢や佐藤たちと馴染み、俺のことをいじりながら楽しそうにしていた。



彼女の親友への結婚報告&紹介の場は、カラオケで行うことにした。



みんな結婚が早かったのか子供がいる人ばかりだったので、広い座敷タイプのパーティールームを三時間貸し切り、子供が好きそうなデリバリーを中心に用意して親子共々楽しんでもらえるようにいろいろと配慮した。



「凄ーい、座敷だ~!るりちゃんのお布団まである~!」

「おもちゃスペースと飲食スペースが分けてくれるのもありがたいねぇ」

「あれ~!可愛いカップ~!子供用に用意してくれたんだね?」

「うん、ヒロ君がね~。私は気がつかなかったけどさ、うちの旦那様は気が利くから」

「え~いいな~。うちの旦那なんてさ~――――」


最初の挨拶はほどほどに。


子供たちはおもちゃや風船に夢中になり、母親たちはテーブルを囲んでおしゃべりに花が咲く。


おしゃべり・・・という名の愚痴になりつつある会話。

会話の内容を聞いちゃいけない気がしたので子供たちの子守りを積極的にしていた。



子供たちは小学低学年の子から数ヶ月の子まで数人いた。


その中にはあの頃の蓮人と同い年の男の子もいて、思わず見入ってしまう。




「おじさん、ごめん。この泣いてる子抱っこしてあげて?こっちで喧嘩はじまっちゃって」


「うん、いいよ。だけど大丈夫かな?ケンカが治まらなかったらおじさんに知らせてね」


「大丈夫だよ、慣れてるし、いざとなったらママたちがちゃんとしてくれるから」


「そうか、偉いね」



皆、こういった集まりになれているのか、大きい子が小さな子を面倒をみたり、喧嘩の仲裁に入ってたりしている。



蓮人のことが一瞬だけ脳裏をかすめたけど、泣いている子をあやして考えないようにした。

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