第52話
そんな慈悲深い彼女の思考を利用し、ズルい俺は同情をひこうとする。
「冷たい男だろ?浮気相手の男に騙されるって分かってて元妻を手放してさ、自分の子だと思っていた蓮人も、血の繋がりがないからって愛情が醒めてしまったんだ」
ダメな男を演出すれば彼女は俺のことを励ましてくれる。
そう確信していた。
「それは仕方ないよ、そんな裏切り方をされて平常でいられる人なんていない。元の奥さんも罪を犯したんだから、因果応報だし、そんなことを見過ごしてもらえる世の中じゃないって若いうちに知れてよかったと思うよ。今回の事で懲りたかどうかはわからないけどね。蓮人君だって、そんな母親に育てられるより、新しいお母さんに出会えて幸せだと思う。――――ただ、あれだね――――」
乙葉は思い通りの言葉をくれた。でも、次の言葉は想像していなかった。
「ヒロ君は辛かったよね…。パパになっていた時のあなたの気持ちは、どこにも行きようがないもの」
それを聞いた途端、閉じ込めていた想いが溢れ出てしまい、不覚にも彼女の前で涙を流してしまった。
「どうして貴方が、こんな目にあわなきゃいけなかったんだろうね…。本当に悲しいよね…」
灯りがポツポツとしかない夜の公園のベンチで、情けないくらいの嗚咽を漏らしながら泣く俺を憐れんだ乙葉は、小さな体で俺を包み込むように抱きしめてくれる。
その温かさに心にできた隙間が埋まっていくけど、蓮人の笑顔を思い返せばすぐに小さな穴が空くから涙が止まらなくなるんだ。
乙葉の前で情けない姿を晒したのは、後にも先にもこの時だけだった。
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