第35話

俺がもっと粘ったら、もしくは例の内容証明を清原に送れば話は変わったのかも知れない。


でも、そうしてしまったら清原家と鍋島家の結婚はなしになるだろう。


鍋島が由香里を嫁に迎えることはまずない。


妊娠したと言われて真っ先に逃げるようなやつなのだから。


かといって俺が由香里とやり直すという選択肢はない。





となれば由香里は親にも友達にも頼れない環境で蓮人と母子家庭になることになる。


それはとてつもない苦労を蓮人にかけてしまうことになりかねない。


そう思わせず、しっかりと子を育てる母親がこの世の中にいっぱい居るのは知っている。


でも、由香里は俺の母と同じで騙されやすい体質なのだ。


きっと俺のように苦労させてしまうだろう。



何度も同じような男に騙されては、金を巻き上げられるのを見て育ってきた。



そんな思いを蓮人にさせてしまう可能性があるのならば、このまま俺は黙っていたほうがいいような気がする。


他力本願もはなはだしいが蓮人はもうすぐ二歳だ。



鍋島とその婚約者のもとで過ごせば俺や由香里のことなどすぐに忘れるだろう。

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