第7話 三位一体

「ギュオオオオオオッ!」


 木々を揺らすほどの咆哮をあげながら飛ぶ大きな影。

 鎧より硬い鱗に、剣より鋭い牙。

 鳥より速く飛び、鬼より獰猛な性格。


 その正体は『飛竜』。


 最強種の名前を欲しいままにする『竜種』の仲間だ。


 竜種の中では弱い部類に入る飛竜だが、それでも他のモンスターに比べたらかなり強い部類に入る。

 それはこのパスキアの大森林でも同じで、トロールやオーガ程度ではまるで歯が立たない。だが、


「ソラ! 超水刃!」

「りょーかい! むんっ!」


 超高圧の水の刃が飛び、飛竜の体を傷つける。

 いかに硬い飛竜の鱗でも、ソラの水刃の強化版『超水刃』は防げなかったみたいだ。


 しかし飛竜の生命力は高く。

 速度を落とすことなく木々の間を飛び続けていた。


 このまま逃げるつもりだろうがそうはいかない。俺にはまだ奥の手が残っている。


「今だベル・・!」

「わふっ!」


 俺の呼びかけに応じ、ケルベロスのベルが飛竜の進行方向に姿を表す。

 これで挟撃の形、飛竜に逃げ場はない。


「ギュアアアッ!」


 飛竜はベルに牙を剥き襲い掛かる。

 ベルの見た目はただの黒い犬。舐めてかかるのも当然だ。


「だがそいつは地獄の番犬だ。お前の力を見せてやれ! 獄炎砲を撃て!」

「グルル……ワフッ!!」


 ベルの口から放たれる巨大な黒い炎。

 冥府に生息するケルベロスは地獄の炎を操ることが出来る。


 それはベルも同じで、俺とレベル上げをする中で黒炎を操るスキルを身につけた。


「ギュアアア!?」


 黒炎が飛竜の体を包み込む。

 普通の炎と違い、黒炎は消えづらい特性がある。粘っこく対象に取りつきしつこく体を燃やす。

 たまらず飛竜は地面に落下する。俺はすかさず『大鬼将軍の無双斧』を手に取り接近する。


「これで――――終わりだ!」


 両手で無双斧を振りかぶり、飛竜の首めがけて振り下ろす。

 その渾身の一撃は飛竜の硬い首を両断し、その命を奪う。


『ギィ……ァ』


 力なく横たわる飛竜の体。

 そしてすぐにいくつかの素材を残して肉体は消え去る。


「ふう、飛竜を狩れるとは俺たちも強くなったもんだ。二人もお疲れ様。特にベルはいいタイミングだったぞ」

「わふっ」


 嬉しそうに尻尾を振るベルの頭をなで、ご褒美の肉をあげる。

 ケルベロスという強い種族だからか、ベルはすぐ強くなった。


 今ではレベル112。俺よりも高くなってしまった。

 ちなみにベルという名前はリリアが付けてくれた。呼びやすくて俺も気に入っている。


「ちょっとリック! ぼくもがんばったでしょ!」

「そうだな、ソラも偉いぞー」

「えへへー」


 弟分が出来たソラだが、俺に対する態度は変わらずだ。

 見た目も変わっていないが、レベルはなんと「150(MAX)」。俺と同じく上限に達してしまった。

 ただソラは体が変化しているのを感じているらしく、「なんだかもうすぐつよくなれそー」と呑気に言っていた。

 俺はそんな予兆感じないんだが、果たして俺はレベルの上限を超えるようになれるんだろうか? 疑問だ。


「と、まずは飛竜の戦利品を取らなくちゃな」



【飛竜の上等肉】

ランク:A

飛竜の上等な赤身肉。

かみごたえが強く、旨味が強い。

焼いても美味いが、スープにしても絶品。


【飛竜の鋭牙】

ランク:A

飛竜の鋭い牙。

粉にして薬に出来る他、加工してナイフにする事も出来る。

竜薬の材料にもなる。


【飛竜の硬鱗】ランク:A

飛竜の堅牢な鱗。

光を浴びると綺麗に輝く。

防具の材料として使える他、装飾品の材料にもなる。


【飛竜の火炎袋】

ランク:A+

火の魔力マナが詰まった体内気管。

取扱い注意。



「おお……さすが飛竜。色々落ちたな」


 竜の体は全てが利用可能だと聞いたことがある。

 牙、鱗、肉、そして内臓。確かに全てが貴重品だ。


「ありがたく使わせて貰うぜ。……ん? どうしたベル」


 帰ろうとしていると、ベルが一点を見つめて「ぐる……」と唸っていた。

 あっちに何かいるのか?


「特に何かいるようには見えないが……匂いでもするのか?」


 流石に神の目でも完全に物の陰に入っているものは見えない。だけどベルの鼻は良く効く、遠くにいる何かを嗅ぎ分けたとしても不思議じゃない。


「もう狩りは充分だが、まあ気になるなら行ってみるか」


 手早く戦利品を小鞄ポーチに収納した俺は、ベルが見ている方向に歩き出すのだった。

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