第10話 収穫物
俺は倉庫から持ってきたそれを机の上に置く。
するとソフィアはそれを繁々と眺める。
「なに? この植物」
「こっち側を見ても分かりづらいか」
ひっくり返し、表面を見せる。
この植物は葉の部分より根の部分の方が太くて長い。そして一番の特徴はその根の部分に「顔」があること。
その顔を見たソフィアは、これがなんの種類か分かったようで、
「こ、これって『マンドラゴラ』じゃない!! なんで伝説の植物がこんなところに!?」
こんなところとは失礼なやつだ。ちょっぴり迷いやすくてモンスターが多いだけで住んだら意外といいところだというのに。
まあそれは今はいい。
この大きなリアクションが見れてちょっとスッキリしたからな。
「マンドラゴラの根の部分には魔力を回復する効果がある。今からこれでお茶を作ってやる」
「いやいやちょっと待って! 私そんな高価な物いただけない! こ、こんな立派なの一本丸々いったいいくらすると思ってるの!? 王都に家が一軒建っちゃうって!」
「へえ。希少なのは知ってたけどそんなにか」
そう言いながら根っこの部分をナイフで切っていく。
するとソフィアは顔を青くして、
「ああ! もったいない!」
「使うんだからもったいなくないだろ」
「わ、私の魔力なんて寝れば治るのにこんな希少な物を使う必要ないでしょ!」
「つってもマンドラゴラならまだ倉庫にストックしてるからな。少し消化しときたかったんだ」
「あ、ありえない……」
ガクッとうなだれるソフィア。
よっぽど衝撃的だったみたいだ。
このマンドラゴラは、倉庫にあった種が育ったものだ。
豊穣神の金鍬で耕した土地で、水神の水差しから出た水で育った結果、マンドラゴラはものすごい勢いで成長し、なんと三日ほどで収穫できるようになった。
ちなみに鑑定結果は、
【マンドラゴラ(品質:最良)】
ランク:S
滅多に見つかることのない希少植物。
根に顔がついており、引っこ抜くと精神異常を起こす叫び声を放つ。
根には強い魔力回復効果があり、優れた薬の材料になる。
生のままだとかなり苦いが、熱を通すと緩和される。
こんな感じだ。
俺は切った根を軽く炒って乾燥させた後、お湯の中に入れマンドラゴラ茶を作る。
熱を通したおかげか、いい香りがする。これなら飲めるだろ。
「ほい。飲んでみてくれ」
「う゛。本当にマンドラゴラを使っちゃったんだ……」
ソフィアはおそるおそるコップを持ち上げる。
まるで高級な壺かなんかを持っているみたいだ。
「これ一杯で私の一回の依頼達成料より高いんじゃ……」
「いいから早く飲めって」
「はい……いただきます……」
さすがに差し出されたものをいただかないのは失礼だと感じたのか、ソフィアは観念してマンドラゴラ茶を飲む。すると、
「お、おいしい……!」
見る見るうちに顔色が良くなってお茶をごくごくと飲んでいく。
どれ、俺も飲んでみるとするか。
「うん、確かにこれは美味しい。深い味の奥にほんのり残る苦味。クセになりそうだ」
それに何だか飲んでいるとポカポカと体が温かくなってくる。
これが魔力が回復している感覚なのか?
「えーっと……リック、さん?」
急に敬語になったソフィアがおずおずと口を開く。
「どうした?」
「あの、良くしていただいて助かったのですが……あいにく今手持ちがなくて……」
申し訳なさそうに金貨を数枚、机の上に置くソフィア。
決して少ない金額ではないが、マンドラゴラの値段には確かに遠く及ばないだろう。
「だから金はいいって」
「そうはいかないわ。受けた恩は返す、それが私の信条なの。何かお返しさせてちょうだい、なんでもするから。お願い!」
そう手を合わせてお願いするソフィア。
うーん、そうは言ってもなあ、すぐには思いつかない。
何かあったかとソフィアのことをジロジロと見て……俺は名案をひらめく。
「そうだソフィア。俺に魔法を教えてくれよ」
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