第9話 ソフィア
俺が森で出会った女性はソフィアと名乗った。
彼女は冒険者で、行方不明になった人を探しにこの森を訪れたらしい。
人探しのためにそんな危険なことをするなんて、いい人だな。
助けが間に合ってよかった。
聞けばソフィアは魔法使いだが、魔力が切れて困っているようだった。
傷はポーションで治せるけど、魔力切れまでは治せない。なので俺は彼女を家に招待することにした。
「自分で歩けるか?」
「……え? あ、はい! 大丈夫、ピンピンしてるから!」
確かに足取りはしっかりしているけど、顔は赤いままだ。
魔力切れには顔が赤くなる症状もあるのか? 今度調べておこう。
「ところでその探している人っていうのは誰なんだ? この森で他の人間に会ったことはないから、見たことはないと思うが」
「えーと……申し訳ないけどそれは言えない。これは極秘任務だからね。まあでも男性だってことは言っとくわ。もし見かけたら保護しておいてくれると助かる」
「分かった。見つけたら助けておくよ」
そんなことを話しながら俺たちは歩く。
ソフィアは歳が近いせいか、話やすかった。リリアも歳は近いけど、幼いところがあるからな。
その点ソフィアは冒険者としてひとり立ちしていることもあって大人びている。それにどこか貴族みたいな気品も感じる。実はいい家柄なんじゃないか?
「……っと、着いたな。あそこが俺の家だ」
「へえ、いい家じゃない。リックはずっとここに住んでいるの?」
「えーと……まあな。この家は俺の爺ちゃんから受け継いだんだ」
咄嗟に嘘をついてしまった。
でも俺が元王子だって言うことは出来ないから仕方ない。それに爺ちゃんから受け継いだと言うのもあながち嘘でもない。
「……ということはやっぱりこの人はリッカード殿下ではない、か。聞いてた顔の特徴とも違うし」
「ん? なんか言ったかソフィア?」
「あ、なんでもない! こっちの話だから気にしないで!」
うーん。ソフィアは何かを隠しているみたいだな。
まあでも言えない秘密は誰にでもある。深く詮索しない方がいいだろう。
「それより喋るスライムって珍しいね。私初めて見た」
「やっぱり珍しいのか。冒険者にはモンスターを操る奴もいるって聞いたけど」
「それはテイマーって職業ね。確かにいるけど、別にテイムしたからといって喋れるようになったりするわけじゃない。それにスライムをテイムするテイマーなんて聞いたことがないよ。普通ある程度知能があるモンスターをテイムするからね」
「なるほどな」
でもソラにはしっかりと知能がある。
もしかしたら他のスライムも知能があるけど、表に出さないだけなのかもな。
「ただいまー」
家に着いた俺は、扉を開けて中に入る。
続いてソフィアも中に。すこしおっかなびっくりな感じだ。
「お邪魔します……中も、普通ね……」
「だから言っただろ? 普通の家だって」
「だってパスキアの大森林に家が建っているなんて普通信じられない。よく魔物に襲われないわね……」
「それは結界のおかげだ。ほら、この装置で結界を張っているんだ」
俺は家の中にある紫色の丸い水晶を指差す。
それは俺のご先祖、アインが作った装置だ。簡単に設定を変えて結界を張ることが出来る優れものだ。
水晶を見たソフィアは、驚いたように体を震わせると、すごい勢いで近づいて食い入るように見入る。
「な、ななななななにこれ!? こんな魔道具が存在したの!? なんて複雑で美しい魔導式……これを作った人は天才よ」
アインが残した物だから凄い物なんだろうなあとは思っていたが、ここまでとは。
ソフィアが正気を取り戻したのは十分後のことだった。
「――――ごめんなさい。少し取り乱した」
「少し?」
「…………ごめんなさい。かなり取り乱した」
「そうだな」
申し訳なさそうにしゅんとするソフィア。
正直俺は全然怒ってないのだが、反応が面白かわいいのでしばらく反省させておいた。
「ところでまだ魔力は回復してないよな?」
「ええ、明日になれば良くなると思うんだけど。魔力って中々回復しないから」
「そうか……あ。そうだ、いい物があったんだ。あれを使えば……」
あることを思い出した俺は、倉庫にある物を取りに行く。
それは最近作った畑で採れたものだ。きっと役に立つぞ。
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