第8話 新たな来訪者

 私の名前はソフィア・マルルシア・ガーネット。

 いわゆる冒険者・・・と呼ばれる職業をしている。


 貴族の家に生まれた私だけど、両親は私の魔法の才能を喜ばず、政略結婚の道具としか見ていなかった。

 そんな生活が嫌になった私は十二歳の頃に家を飛び出し、それから六年間、魔法の腕ひとつで生計を立ててきた。


 私の魔法の腕は他の魔法使いよりも高い。これも私のスキル『魔導師』のおかげだ。

 成長するにしたがって魔力量がどんどん増えて、魔法もどんどん覚えることが出来た。おかげで今では上位のランクである『金等級ゴールド』の冒険者になることが出来た。


 順調に見える私の冒険者人生だけど、悩みが一つだけあった。

 それは仲間に恵まれないということ。


 元貴族の女、それだけで近寄ってくる男の多いこと。言い寄ってくる男は全員私の魔法で痛い目を見せてあげた。

 でもそのせいで私はパーティメンバーを攻撃するヤバい女だという悪評がついてしまい。今では誰もパーティを組んでくれない。


 だから私は今日もソロで依頼をこなす。今日はパスキアの大森林での人探し、頑張らなきゃ。


「捨てられた王子、か。私と境遇が少し似ているかもね」


 今回の捜索対象は、この森に捨てられた王子、リッカード殿下だ。

 一般人は「リッカード殿下は突然乱心し、大臣含む数名を殺害したのでその場で騎士に処分された」と聞いている。私もつい最近までそう思っていた。


 でも今回の依頼主は全く違うことを言っていた。

 いわく殿下は「無実の罪を着せられ、パスキアの大森林に捨てられた」そうだ。


 そんなのひどい。あまりにもひどすぎる。

 しかもそうした理由が「才能がない」かららしい。


 どうしてこうも権力者の親は、子どもの未来を好き勝手に決めてしまえるのだろう。考えるたび頭が怒りで埋め尽くされる。


 高額な成功報酬も魅力的だが、その王子を救いたいという気持ちも強い。見つけてあげることが出来ればいいのだけれど。


「でもこの森、出てくるモンスターが強すぎる……! このままじゃ魔力が保たない!」


 次から次へと現れる強力なモンスター。

 今までそこそこ修羅場を潜ってきたという自負があるけど、この森はその中でも上位に入る難度だ。


 トロールやオーガなどの強力な亜人種を筆頭に、メガバイソンや飛竜まで現れる。

 幻影魔法とかでなんとか逃げることが出来たけど、それももう限界に近い。どこかで休むことが出来ればいいんだけど、この森に人が休めるような家があるわけもない。


「エルフなら住んでてもおかしくないけど、エルフは排他的な種族。人を認めてくれるはずもない。いよいよやばくなってきたね……」


 パーティを組んでいればこんなことにはならなかった。だけど私に心を許せるような仲間はいない。最初から詰んでいたんだ。


 もう少し、他人と打ち解ける努力をしていれば、そう思っていると、木の陰から突然ぬっと巨大な人影が現れる。


 長い耳に大きな鼻。

 四メートルを超える巨大にぶよぶよの厚い皮。こいつは……


「ハイトロール……!」


 魔法防御能力の高い、厄介な相手だ。

 消耗していない状態なら魔法でゴリ押し出来るけど、今はそんな魔力は残っていない。


 かといって逃げるという選択は取れない。ハイトロールは見た目に似合わずかなり素早いからだ。


「だったらやるしかない! 火炎ファイア!」


 手にした杖の先から火炎を生み出し、ハイトロールの顔面にぶつける。

 顔なら脂肪が薄い、体より効果があるはずだ。


 しかしハイトロールは火炎ファイアを食らってもケロッとしていた。どうやら想像以上に魔力がなくて威力が落ちていたようだ。


『グゥ……ッッ!』


 ハイトロールはお返しとばかりに手にした棍棒を振り上げる。

 もうここまで。そう諦めかけたその瞬間、


「安心しろ、もう大丈夫だ」


 突然聞こえる優しい声。

 そしてそれと同時に、キィンという綺麗な金属音と共にハイトロールが両断される。


「な、にが……?」


 気づけばハイトロールの前に見慣れぬ男性が立っていた。その手には黄金色に輝く大きな剣がある。もしかしてこの人がハイトロールを?


「怪我はないか?」

「ひゃ、ひゃい。大丈夫、です……」


 命の危機を颯爽と救ってくれたその人は、まるで本に出てくるようなヒーローに見えた。

 気づけば私の鼓動は、経験したことのない速度で動いていた。

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