第11話 魔力視

「魔法を……覚えたい?」


 想定外のお願いだったのか、ソフィアは首を傾げる。

 まあそんなこと頼まれるとは普通思わないだろうな?


「私は別に構わないけど、リックって魔法系のスキル持ちじゃないでしょ? それだとすぐに魔法を覚えるのは難しいと思うよ?」


 魔法系のスキルを持ってなくても魔法使いにはなれる。

 スキルはあくまで補助であり、人は努力でどんな職業にもなれるんだ。


 しかしスキルを持ってない者と持っている者ではやはり差が出てしまう。特に戦闘系の職はその差が如実に現れる。

 ソフィアは俺が剣でハイトロールを倒したところを見たから、俺が剣士系のスキルを持っていると思っているのだろう。


「難しいことは分かっている。でも魔法も使えるようになりたいんだ。明日まででいいから教えてくれないか?」

「うーん……本当にそれをして欲しいならいいけど。でも使えるようにならなくても恨まないでね?」

「当然だ」


 こうして俺はソフィアに魔法を教えてもらえることになった。

 くく、使えるようになるのが楽しみだ。


◇ ◇ ◇


 屋内で魔法の練習をするのは危ないので俺たちは外に出た。

 高い木や畑からも離れた開けた場所だ。ここなら思う存分魔法が使える。


「ソフィア、杖は家に置いてきたけどいいのか?」

「杖は魔法を使うのに必ず必要なわけじゃない。あくまであれは魔法を安定させたり強化させたりするだけ。最初から使うと変な癖がつくから、最初は杖なしで覚えたほうがいいの」

「ふうん。そんなものなのか」


 魔法使いは必ず杖を使うイメージがあったが、別になくてもいいんだな。

 とはいえあった方が魔法が強くなるなら、あった方がよさそうだ。今度倉庫で探してみるか。


「それじゃあ魔法の基本を教えるね。魔力は体の中心にある、それを腕を通して指先まで移動させる」


 ソフィアは胸、肩、腕、手のひらを順番に指差す。

 分からないけど魔力が移動しているらしい。


「魔力はあらゆる自然現象に変化する。だけど変化させるには強い想像力イメージが必要なの。炎の魔法を使うなら、頭の中に強い炎をイメージして……」


 ソフィアは指先を前に向けて「火炎ファイア!」と叫ぶ。

 すると指先から大きな炎が吹き出す。すごいな、こっちまで熱が伝わってくる。


「と、こんな感じ。分かった?」

「んー。まあどんな感じで魔法を使ってるかは分かったけど、その魔力を流すという感覚が良く分からないな」


 体の中心に不思議な力が渦巻いているのは分かる。これがきっと『魔力』なんだろう。

 でもこれを動かす方法がさっぱりだ。踏ん張ってみるけどちっとも動く気がしない。


「なんかコツとかないのか?」

「コツと言われても私はすぐに出来たから分かんないのよね」

「へえ、さすが『魔導師』スキル持ちだな」


 魔法系のスキルに目覚める者は、スキルを判定するより前から魔法の才能があるという。

 これは他のスキルにも同じことが言え、剣士系のスキルに目覚める者は、生まれつき剣の才能がある者が多いらしい。


 これは俺の推測だが、スキルは元からある才能を伸ばすものなんじゃないだろうか?

 そんな気がしてならない。


「ひとまずもう一回魔法を使ってみる。悪いけどそれで何かつかんでちょうだい」


 そう言ってソフィアは再び右手に力を込める。

 俺はその様子をジッと見つめて観察する。


 すると不思議なものが見えてくる。


「これは……もしかして魔力か?」


 ソフィアの体の中を流れる青い光が俺の目に映った。

 こんな物さっきまでは見えなかったぞ?


 その青い光は腕を通って指の先に集まると、炎に変わってソフィアの指先から外に出ていく。

 ……間違いない、この青い光は魔力なんだ。俺の目は目に見えないはずの魔力を見ることが出来るんだ。


「名付けて『魔力視マジックアイ』ってところか。ところでこれは俺の魔力も見えるのか?」


 魔力視マジックアイを発動したまま自分の胸元を見てみると、そこでは青い光がぐるぐると渦巻いていた。

 その光が宿っている部分に力を入れてみると、魔力が体内を移動するじゃないか。

 見えるなら魔力を移動させるのも簡単だ。

 今まで勘でやっていたのを、ちゃんと確認しながら出来るからな。


 これなら魔法もすぐに使えるかもしれないぞ……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る