第3話 謎の家

「おじゃましまーす……」


 警戒しながら家の中に足を踏み入れる。

 外観と違わず、中も普通の家って感じだ。テーブルに椅子、キッチンにベッドと家具が置いてある。


「人はいなさそうだな」


 留守なのか、それとも家主はいないのか分からないが、人の気配はなかった。

 見た感じ埃も溜まってないし、誰か住んでそうだけど。


「少し探索してみるか」


 この家にはいくつか部屋があるみたいだ。

 俺は今すぐ眠って休憩したい欲求を抑えて、家の中を見て回る。


 家の中は思ったより広くて、部屋がたくさんあった。

 その中でも俺が目を引かれたのは、鍛治部屋だった。やすりや槌、火を起こす炉に金床かなとこ。詳しいわけじゃないが、どれも見ただけで一級品だと分かる。


 この家の主人は鍛治職人だったのか?


「特にこの金床は立派だな。調べてみるか」


 試しに【鑑定】をしてみる、すると



【鍛治神の金床】ランク:EX

鍛治の神の作り出した最高ランクの金床。

神話級の武器を作り出すことが可能。



「ふぁ!?」


 とんでもない鑑定結果に思わず情けない声を出してしまう。

 か、鍛治の神が作った金床だって!? なんでそんな代物がこんな所に!?


 ランク:EXというのも意味が分からない。

 ランクはF〜Aの順番で位が高くなり、更にAの上にSランクが存在する。EXなんてものは聞いたことがない。

 だけどこの神が作ったというのが正しいなら、Sランクの更に上なのかもしれない。Sランクでも国宝級の代物なのに、それより上の物が置いてあるとかどうなってんだ……


「ひ、ひとまず他の物も鑑定してみるか」


 そしたら出るわ出るわ、意味の分からない物が。

 治癒神のすりこぎ、豊穣神のくわ、創造神の錬金台、炎神の調理台に水神の水差し。更には錆びた聖剣なんて物もあった。

 どうなってんだこの家は?


「とんでもない所に来てしまったな……」


 呟きながらキッチンにある『超高品質魔導コンロ』と『炎神のフライパン』で料理をする。

 料理と言ってもパスキア草を炒めただけだ。しかし火の神の力のおかげか、それを食べると疲労感が吹き飛び、めちゃくちゃ元気になった。

 『水神の水差し』からは無限に水が出てくるし……このアイテムたちが物凄い力を持ってるのは間違いないみたいだ。


「勝手に使って怒られるかな……もし帰ってきたら謝りたおそう」


 罪悪感は感じるけど今は非常事態だ。背に腹は変えられない。

 謝っても許してもらえなければ、その時はその時だ。


 たくさん食べ、飲んで元気を取り戻し休憩する。

 次は何をしようかと考えていると、俺は名案を思いつく。


「そうだ。神の目の力を使えばこの家のことも分かるんじゃないか?」


 神の目は全てを見通す力があると書いてあった。

 事実俺はこの力のおかげで家にたどり着いたのだから。


 目に力を入れて念じる。

 この家のことが知りたい、と。


 すると家の壁の一部が光り出す。

 近づいてその壁を触ってみると、突然壁の一部が開き、その裏から一冊の本が現れる。


「これは……?」


 それは家主の日記だった。

 何月何日に何をしたのかが詳細に書かれていたが、その内容が凄まじかった。


 聖剣を作り出すことに成功しただの、禁忌の魔法を完成させただの、ドラゴンと友になっただの。どれも信じられないような内容だ。

 家にあった常識はずれのアイテムを見てなければとても信じなかっただろうな。


 ぶっ飛んだ内容の日記を読み進めていく。すると最後のページに今までとは違った文が出てきて目が止まる。


『この日記を読んでいる者よ。これを読んでいる頃、きっと私はもう亡くなっているだろう。ゆえに私の遺産全てを読んでいる君に託そうと思う。君ならばきっと悪いことには使わないだろう。自分の思うまま使ってくれ』


「自分の思うまま使ってくれって……本当にいいのか? もし俺じゃなくて悪い奴が見つけてたら大変なことになってただろ」


 怪しげに思いながらページの一番下に目を向ける。

 そこには日記の主の名前が書き記されていた。


『アイン・ツードリヒ・フォン・アガスティア』……その名前を見た俺は目を丸くして驚愕した。


「この名前、アガスティア王国の初代国王の名前じゃないか!? ここはご先祖様の家だったのか!?」


 アイン・ツードリヒ・フォン・アガスティア。

 三百年前の人物だが、今でも国民が敬うほどの大偉人だ。


 あらゆる魔法と剣術を使い、その力は空を裂き山を割ったと言われている。

 俺の父上も憧れていて、そのせいで力至上主義になってしまった。


「アインは晩年、一人森で過ごされたと聞いたことがある。まさかそれがこことはな……」


 この家に入れたのはきっと俺がその血を継いでいるからだろう。

 だからアインは日記を読んだ者に遺産を託したんだ。


「ありがとうございます。貴方が残してくれた力、使わせてもらいます」


 この家に残された莫大な力。それを使っていいと許しをもらったのだからもう遠慮はいらない。

 俺は日記をもとあった所に戻して一礼し、行動を再開するのだった。

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